カムシャフトとベベルシャフト -W650エンジンのレストア&モディファイ-

押されているロッカーアームを移動させてしまって、元に戻せなくなったために、カムシャフトキャップを外さなければならなくなった話の続き。

カムシャフトキャップの固定ボルトを全て緩めてカムシャフトキャップを浮かすと、カチンという音と共にスプリングに押されてロッカーアームが正しい位置に戻った。固定ボルトをそれぞれの穴に戻していく。

太いボルトをトルクレンチで規定トルクで締め付け、細いボルト締め付けを始める。徐々に締め付ける力を上げながら3周。ここから規定トルクで締め付けていく。

問題のボルトに到達。さっき、いくら締め付けてもトルクレンチがカチっと言わなかったボルトだ。

さっきと同様、いくら回してもヌルヌルと手ごたえは変わらずにトルクレンチは回り続ける。

マジかー 絶対やべえ

そう思ってトルクレンチを回し続けていた時にそれは起きた。

ピンッ

小さく乾いた音と共に、トルクレンチにかかっていた手応えがなくなった。

ピンッておい 終わったな・・・

しばし動きを止めて呼吸を整える。そしてそっとボルトを摘み上げた。

ボルトが途中から折れている。シリンダーヘッド側のネジがやられていると思ったが、そうではなかった。そうか、雌ネジがダメになったのなら、あんな音はしないか。

締めている時に折れたボルトと、緩めている時に折れたボルトって、どっちが摘出大変なんだっけ? シリンダーヘッド外さなきゃダメかな? ヘリコイルぶち込まなきゃダメかな?

これからやらなければならない作業を思い浮かべ、軽く意識を失いかけながらカムシャフトキャップのボルトを緩める。

残ってたボルトの先端。

幸いにも指で回して取り去ることができた。それにしてもこのボルト、過去に過度なトルクで締め付けられていたのか? 代わりのボルトをW400をバラしたパーツを入れておいた袋から取り出し、カムシャフトキャップを組み立てた。

バルブクリアランスの測定作業に復帰。でも今思えば、動かしてはいけないロッカーアームを動かしたことによって、折れる可能性があったボルトを取り替えることができたわけだ。ある意味持ってるぜ

測定の結果、二つのシムを新たに購入し、バルブクリアランスの調整を終えた。

ベベルタワーを組み立てる

話は前後するが、シリンダーヘッドを組み立てる前に戻る。シリンダーヘッドを組み立てる前に、ベベルシャフトにスナップリングを入れておけとサービスマニュアルに書いてある。シリンダーヘッドを取りつけると、ベベルシャフトが上のベベルギアケースに重なり、入れづらくなるからだろう。言われたとおりにやろうとした。

このスナップリングは、上下2分割になっているベベルシャフトを固定するためのものだ。スナップリングプライヤーで広げつつ、ベベルギアに噛み合うためにセレーションが切ってあるベベルシャフトの先端からスナップリングを入れた。

えぇっ?

ベベルシャフトにかけられたスナップリングは、明らかに変形して広がっている。ただ広がっているだけでなく、細くなった部分から折れるように曲がってしまった。思い起こせば、このスナップリングをばらした時も、こんな感じになっていた気がする。

途方に暮れながらここで作業は中断した。サービスマニュアル的には、このスナップリングを入れておかないと、シリンダーヘッドを組み立てられないからだ。

ウェビックの純正部品販売で注文。念のため多めにと思ったが、在庫が2個だけだった。

スナップリングが家に届いた。他の作業を進めたかったのと、シリンダーヘッドを組み立ててもスナップリングを入れられそうなので、すでにシリンダーヘッドはついている。前回の失敗をふまえて、ベベルシャフトの途中からスナップリングを入れることにした。先端から入れると、越えなければならない無駄なふくらみがある。

スナップリングプライヤーでスナップリングを広げながらベベルシャフトにスナップリングを入れる。必要以上にスナップリングを広げないようにだ。だが、入ったスナップリングは広がってしまっていた。

これ どうすればいいんだよ?

同じことで困った人がいないか検索してみたけど出てこない。

あと1個しか残ってないスナップリングを手に途方に暮れる。

広げないようにスナップリングを入れる。それはもうこれしかない。スナップリングをねじって広げ、ベベルシャフトに入ったら戻すのだ。

やってみた。入った。そこから本来のはめる場所に移動する。これもおっかなびっくり。しかもすげえやりづらい。上ベベルシャフトがスプリングに押されて下がってくるので、ドライバーのビットでつっかえ棒をしながらの作業。

はまった。でもなんとなくゆるい。ただこれより広げずに入れることは無理。つまり誰がやっても、これぐらいゆるい感じになるはず。

ああ 走ってる途中にこのスナップリングがぶち折れたらどうなる? 

上のベベルシャフトは下がってベベルギアからはずれるだろうな

するとカムシャフトの回転が止まるだろ

バルブは燃焼室に突き出たまま止まるんだよ

ヒョーーーー

不安をかかえたまま、ベベルタワーのカバーを引き上げるのであった。

シリンダーとシリンダーヘッド -W650エンジンのレストア&モディファイ-

カムシャフトをセット

エンジンの腰下の部分が完成した。作業はエンジン上部へと移動していく。

シリンダーとピストン

ピストンヘッドには物凄い厚みのカーボンが溜まっていたので、これを除去する。

ピストンヘッドにこびりついたカーボン

カーボンを剥がしてみると、ピストンヘッドはツルツルだった。こんなんでもカーボンって溜まるんだね。

カーボンを取り去ったピストン

コンロッドにピストンを取り付けて、シリンダーを装着する。ただし、Wのピストンは左右同じ位置にある。1人だと非常にシリンダーに入れづらい。

クリアファイルを切って、ピストンリングコンプレッサーのようなものを作り、シリンダーをメインチューブから紐で吊るして作業する。

クリアファイルごとシリンダーに吸い込まれる。

だめだ、薄すぎた

単気筒なら  

多気筒でも、せめてピストンの位置が違えば

スマートに進まない作業は気持ちが悪い

シリンダーヘッド

シリンダーヘッドは燃焼室はもちろんのこと、ポートにも相当なカーボンが溜まっていたのでバルブ周りをすべてバラして掃除をした。

バルブスプリングコンプレッサーでバルブ周りを分解する

カーボンが堆積したシリンダーヘッド

シリンダーヘッドにもカーボンが堆積

カーボンを取り去ったシリンダーヘッド

カーボンを取り去ったシリンダーヘッド

そのシリンダーヘッドをシリンダーの上にかぶせる。シリンダーとシリンダーヘッドは共締めだ。

ボルトを締め終わったら、フライホイールの上死点マークをあわせてから、シリンダーヘッドの上に指定の回転位置にあわせてカムシャフトを載せる。その上からかぶせるようにカムシャフトキャップをセットする。このカムシャフトキャップというのは、ロッカーアームがじゃらじゃらくっついている、カムシャフトを固定する部品だ。

カムシャフトをセット

2種類の太さの何本ものボルトを仮締めしてから、太い方のボルトを規定のトルクで決められた順番で締めていく。太い方が締め終わったら、続いて細い方を締めにはいる。

ここで、なにやらおかしい1本が現れた。締めても締めてもトルクレンチがカチって言わない。めねじがダメになっていく感覚に似てる

( ̄▽ ̄;)

意味が無いとわかっていても、トルクレンチにかける力を瞬間的に強めて、矯正的にカチッといわせる。よし、これでOK(と、自分に言い聞かせる) 

バルブクリアランス調整

ここから、バルブクリアランス調整に入る。Wのバルブクリアランス調整は変わっていて(いや、これが普通なのか?)、ロッカーアームとバルブの間に挟んだ、シムで調整する。よくある(いや、こっちがマイノリティか?)ロッカーアームの先端のネジで調整するタイプではない。

このタイプのメリットは、ネジの緩みが起こり得ないという信頼性の高さだが、適した厚みのシムがなければ調整は一切できないデメリットがある。今回はW400分のシムもあるので多少安心だ。

このシムを取り替えるにはロッカーアームが邪魔になるのだが、Wは面白い方法で解決している。ロッカーアームが水平に移動するのだ。これによってカムシャフト周りを分解することなく、シムを交換してバルブクリアランスを調整できる。

1番シリンダー側からシクネスゲージでバルブクリアランスを測定し、それを一つ一つメモしていく。続いて2番シリンダー。ロッカーアームの下にシクネスゲージを差し入れ・・・

あれ? シクネスゲージが入らない

ロッカーアームを揺さぶってみても、カタっとも動かない。こんなミッチミチなバルブクリアランスってありか? 他のところのシムと替えてみよう。そう思ってロッカーアームをずらし始める。

むむ 動かない (そりゃそうだろ)

プラスチックハンマーで叩いてみよう (やめとけって)

少しずつ動いてるぞ (そろそろ気づけって)

カチン!

何だこの音は? 抑えられていたものが解き放たれて、伸びあがったところを金属の壁にぶつかったような音だ。

(抑えていたロッカーアームが外れてバルブスプリングが伸び、バルブがバルブシートに当たった音だよ)

うっわー そうか 1番シリンダーが圧縮上死点の時は、2番シリンダーは排気上死点だ。ロッカーアームがバルブを押していたんだ。

バルブを指で押してロッカーアームを元の位置に戻そうとする。

いやあ 無理だってわかってるさ ちょっとやってみただけだよ

カムシャフトキャップをばらさないとダメだな あのボルト せっかく締まったのに(いや締まってないって)

おろかな自分を呪いながら、カムシャフトキャップのボルトをゆるめはじめるのであった。

クランクケースカバーを仕上げる -W650エンジンのレストア&モディファイ-

開口があり、かっこいいW400のスプロケットカバー

クランクケースの両側に取り付くカバーを綺麗に加工する。バフで鏡面仕上げも考えた。ただ、以前XLR250のシリンダーヘッドカバーをバフ仕上げしたのだが、ツルツル、ピカピカを維持するのはなかなか大変で、結局そのうち白く曇らせてしまった。

そんな経験を踏まえて、今回はヘアラインぐらいの仕上げで、耐熱クリアを吹いて終わりにすることにした。

作業はベビーサンダーでやるから簡単。昔は耐水ペーパーでゴシゴシ磨いていた。指は痛くなるし、さきっちょが灰色に染まるし大変だった。

一旦軽く鏡面仕上げっぽくなる。腐食していた部分はうっすら跡が残るが、深追いはしないでおこう。

鏡面仕上げぐらいまで磨かれたクラッチカバー

右側のベベルギアケース、クラッチカバー、左側のおにぎりは形が簡単なので、作業はあっという間。ところが、スプロケットカバーはそういかない

W650のスプロケットカバーはのっぺりとして磨きやすそう。

のっぺりとしたW650のスプロケットカバー

だが、うちのWはW400のスプロケットカバーを使っている。W400のスプロケットカバーは、いくつもの開口があり、かっこいいのだ。

今までは純正のままの黒で使用していたが、これを機に塗装をはいで、アルミの地肌を出す。まずは剥離剤の代わりにブレーキフルード漬けにしておく。

1週間ほどほったらかした後に見てみるも、まったくなんの変化もなし。なんちゅー塗膜。仕方なくベビーサンダーで作業を始めるが、厚い塗膜に相まって、いくつもある開口のおかげで作業が遅々として進まない。

苦労の末に半鏡面まで持っていき、ヘアラインの流れに頭を悩ませつつも、下処理は完成。耐熱クリアを吹くと、想定していなかった、深みのある雰囲気に仕上がった。

開口があり、かっこいいW400のスプロケットカバー
深みのある感じに仕上がったクランクケースカバー
深みのある感じに仕上がったベベルギアケース

シリンダーの塗装

 そのモデルにもよるがw650のシリンダーの色は黒になっているこれはシリンダーを黒にすることによって、レベルタワーの存在感を際立たせようというカワサキの狙いだと思っている。

それはそれで悪くないのだが、インスタグラムでシリンダーがシルバーのW800の写真を見ると、クランクケース、シリンダー、シリンダーヘッドの繋がりが出来上がり、バーチカルツインらしいエンジンの存在感が感じられるのだ。

シリンダーはシルバーだろ

ということで、シリンダーをクランクケースと同じ耐熱シルバーで塗装した。左右のカバーとは違い、相変わらず平坦な感じの耐熱シルバー。クランクケースからの繋がりで、この平坦さがどれほど見た目に影響を与えるか心配だ。

耐熱シルバーを吹いたシリンダー

クランクケースを組み立てる -W650エンジンのレストア&モディファイ-

つぶれたプラスチゲージを測定

エクストラスペシャルワイドミッションが完成したので、クランクシャフトとバランスシャフトのメタルクリアランスを測定する。

この測定にはプラスチゲージというものを使うのだが、持ってないのでアストロプロダクツ買いに行く。店について見ると、プラスチゲージは測定範囲によって3種類あった。どれが適しているのかわからない。

しかも一つ800円位とそこそこの値段。たいして使うものでもないので、全部買いするほど富豪ではない。今日買うのは諦めて店を出る。

帰宅してからサービスマニュアルで測定すべき、クリアランスを確認する。それをもとに後日アストロプロダクツでプラスチゲージを購入。

プラスチゲージとは何か

W650のクランクシャフトには、滑り軸受が採用されている。滑り軸受けというのは、メタルという金属で軸を受けていて、軸とメタルの間には微小な隙間があり、オイルで潤滑されている。

この隙間がメタルクリアランスで、狭すぎると油が切れて熱を持ち、広過ぎるとガタが発生し振動する。この隙間がどれぐらいあるかを測定するのがプラスチゲージだ。

測定方法はいたって簡単。プラスチゲージを軸とメタルの間に挟む。

プラスチゲージをセット

規定トルクで組み立てて分解する。

トルクレンチで規定トルクで締め付け

するとプラスチゲージは潰れて広がっている。その潰れた幅をプラスチゲージのパッケージにプリントされた目盛りでクリアランスを読み取る。

つぶれたプラスチゲージを測定

あれだな 挟んで潰れる細いのがプラスチで、パッケージの目盛りがゲージだな。 うんうん

クランクシャフトの4か所とバランスシャフトの2か所を測定して、規定の範囲に収まっていることを確認。さらにコンロッドのメタルクリアランスも確認する。

コンロッドのメタルクリアランスをプラスチゲージで測定

思わぬ干渉

いよいよクランクケースを組み立て始める訳だが、その前にバランスシャフト、クランクシャフト、トランスミッションを入れた状態で仮組みをしてみる。

トランスミッションをニュートラルにして、ロアケースから垂れ下がった3本のシフトフォークを、それを待ち構えるアッパーケースに収められたギアの溝に入れるのだが、これがなかなか難しい。

何回か仕切り直してようやく収めるも、何かおかしい。上下のクランクケースが閉じきっていない。明らかに何かが挟まっている様子。

クランクケースを開いて中を確認してみると、ギアの歯が当たって傷ついているところがあった。クラッチレリーズを取り付けるボスが、クランクケースの中にポリープのように飛び出ている。

当たっているのはドライブシャフトの1速ギア。W400のギアに変えたから大きくはなっている。ただクラッチレリーズは、W400にだってある。一体どういうことだ?

新聞にくるんで、ダンボール箱に突っ込んであったW400のクランクケースを引っ張り出す。なんと、ボスがない。潔いほどにきっぱりとない。

W400にはボスが無い

なるほど、じゃあ切ろう(´・ω・`)

しっかり養生して、ポリープ切除手術を開始。ルーターを使って削っていく。良性のポリープだったので、全摘せずに干渉する部分だけ切除。

ポリープの切除手術

クランクケースを塗装する

パーツクリーナーを使っても落とせない染み付いた汚れや、前輪が巻き上げた小石などで傷ついてしまったクランクケースを塗装するのに使うのは、つや消しシルバーの耐熱スプレー。大昔にXLR250のクランクケースをこの耐熱つや消しを塗ったことがあるが、なんとなく奥行きのない平坦な感じになってしまったのを覚えている。はたして今回はどうなるだろう。

なかなか面倒くさいマスキングを終えて、スプレーを吹く。やっぱり平坦なしあがりに。なんでこのスプレーはこんなにも平坦になるんだろう。多分メタリック感を出す粒々の大きさが相当細かいんだろうな。だから均一な銀になってる。平坦なんて言ったらメーカーは怒るな。

クランクケースの塗装

クランクケースを閉じる

クランクケースの合わせ面は液体パッキンを使う。このパッキン、可使時間が短いので手際の良い作業が必要。そして、薄く塗らなければならないらしいのだが、薄いって具体的にどれぐらいのことなんだろうか?

うすーく丁寧に、しかし手早く発見、無理を得るとクランクケースを食べ、クランクケースを閉じる合わせ面が練習密着しているのを確認してからボルトを・・・

ボッ ボルト!

なんと、手早く作業をしなければならないというのに、ボルトが分解した時にビニール袋に収めたままになっていた。ロアケースのボルトも含めると、その本数は30本近い!(汗) こいつらを1本1本掃除して、モリブデングリスを塗って締め付けなければならない・・・

先の読めない自分を呪いながら、ボルトをふきふきグリスを塗り塗りするのであった。

トランスミッションをいじる -W650エンジンのレストア&モディファイ-

トランスミッションのドッグクラッチ

完全にばらし終えたW650とW400のエンジン。トランスミッションに注目していく。

ボールベアリングの滑り

トランスミッションのベアリングのはめあい部分のクランクケースが擦れて光っている。これはボールベアリングが滑っているのではないか?

ベアリングのクリープで擦れて光ったクランクケース

トランスミッションはクランクケースにボールベアリングで支えられている。このボールベアリングには溝が掘られ、クランクケースの溝と共にはめられたキーによって、スラスト方向の動きが抑制されている。

回転方向は上下のクランクケースに挟まれていて、その締め付け力によって固定されている。よって構造的にはこの滑りを抑えることは出来そうにない。

この滑りは、調べてみると、クリープと呼ぶらしい。無い方がいいらしい。そりゃそうだろう 接着剤で固定するのもありらしいので、組み立てる時はネジロックで固定することにしよう。

ポジティブニュートラルファインダー

Wのトランスミッションにはポジティブニュートラルファインダーという、停止時に1速からニュートラルに入りやすい機構が設けられている。これによって信号待ちでニュートラルに入らず、1速と2速を行ったり来たりすることがない。

逆にこれがあるおかげで、動いていない時に2速以上に入れることができない。押しがけする時、1速よりも2速の方がかけやすい。

大体止まる時は1速まで下げずに2速からニュートラルに入れてるし、そもそもそんな機能がついてるとは知らないから、1速からニュートラルに入れる時も足の操作を加減してるし。

ポジティブニュートラルファインダーいらねー

じゃあ、どうやってポジティブニュートラルファインダーの息の根を止めるか。ポジティブニュートラルファインダーがその機能を実現するために特別に用意されているものは、直径4ミリぐらいのボールが三つだけ。

このボールがギアのシャフトに接する面に120度刻みで埋め込まれている。ギアが回転している時、つまりバイクが動いている時は、ボールは遠心力によって穴の中に隠れている。

ポジティブニュートラルファインダーの球

バイクが止まるとギアの回転が止まり、遠心力を失ったボールは下方に移動する。シャフトにはボールの直径の半分の深さの溝が掘られており、移動してきたボールはその溝にはまる。

ポジティブニュートラルファインダーの溝

ギアはトランスミッションのシャフト上を軸方向に、1速の位置、ニュートラルの位置、2速の位置と移動する。シャフトの溝は1速の位置とニュートラルの位置の間に掘られているため、ボールがつっかえてしまい2速の位置までギアが動くことができない。

このボールにはエンジンの外へ出ていってもらおう。

エクストラスペシャルワイドミッション

W400とW650のミッションを組み合わせて、エクストラスペシャルワイドなミッションを作る。使うのはW400の1速2速、W650の3速4速5速だ。1速はW400で5速はW650で決まり。逆だとクロスになってしまうから。

境目になるところのギア間の減速比の変化率が大きくなってしまうので、どこを境目にするかが悩みどころ。低いギアの方がつながりの悪さをパワーで何とかしてくれるのではないかと思うのと、1、2間より2、3間の方が無理がなさそうなのでここにした。

アッパークランクケースの上に組み替えたドライブシャフトとアウトプットシャフトを仮組みして動作を確認する。

アッパーケースに仮組み

各ギア、きちんと噛み合っている。変速動作を再現してギアを左右に移動させて、隣のギアとドッグクラッチでの噛み合いも問題なさそうだ。

トランスミッションのドッグクラッチ

念のためロアーケースに組んでみると、なぜかアウトプットシャフトが収まらない。よく見るとキックシステムのギアと1速のギアがぶつかっている。

なんで?

ああ そうか 

キックペダルを踏み下ろした回転力は、アウトプットシャフトの1速ギアを回転させる。このギアはニュートラルの時はアウトプットシャフトとは噛み合っていないのでアウトプットシャフトは回転しない。回転力はアウトプットシャフトと噛み合っているドライブシャフトの1速のギアを回す。このギアはドライブシャフトそのものなので、ドライブシャフトが回転し、クラッチを経由してクランクシャフトを回転させる。

エンジン後部に備わったキックシステム

つまりキックシステムと関わる1速ギアは、W650のものでなければならないのだ。

まじか・・・

エクストラスペシャルワイドミッションのポイントは、W400の1速ギアを使うことだというのに。

はたと思いつく。

W400用キックオプションってあったじゃん

すぐにカワサキの純正部品を調べてみると、アッセンブリーでは廃番になっていたが、スパーギアだけはまだ売っていた。ついでにW650用のキックスパーを調べてみると、こちらは廃番。部品が入手できなくなっていくのは怖い。急いで注文。

届いたW400用キックスパーギアと、W650のそれ。大きさが違う。

左がW400のスパーギアで右がW650のそれ

これを組み込んでエクストラスペシャルワイドミッションの完成。しかしこのセットでいくと、ザムに特注しているリアスプロケットの丁数では合わないことに気づく。だめもとでザムの担当者に丁数の変更願いをメールしてみる。

数日後

まだ製作していなかったということで、なんとOK。助かった(;^ω^)

※追記 このミッションの組み合わせは、まったくお勧めできません。いいところもありますが、悪いところがものすごく悪いので、決してまねしないでください。

エンジン分解 -W650エンジンのレストア&モディファイ-

W650とW400のフライホイールの違い

W400のエンジンがばらし終えたので、続いてW650のエンジンの分解を始める。

W400のエンジンで練習しておいたおかげで、ベベルタワーの分解にも手こずることなくカムシャフトまで外し終える。

続いて、シリンダーヘッドボルトを緩めるわけだが、8本あるボルトのうち、内側4本がエンジンの外部に露出している。そのため、前輪が巻き上げた砂つぶなどがネジ穴に入り込む。そのせいでw400のエンジンをばらした時は、このシリンダーヘッドボルトの1本がかじってしまい抜けなくなってしまった。

ネジ穴にCRC556を吹き入れる。それをパーツクリーナーで吹き飛ばす。それを何度も繰り返す何度も何度も繰り返す。パーツクリーナーを吹くたびに出てきた黒いツブツブが、一切出て来なくなったところでボルトを緩めはじめる。

ボルトを決められた順番通り、少しずつ少しずつ緩めていく。スピナーハンドルによってかけられた反時計回りの力に、ボルトは耐え切れずほんの少し回転し「ティン」と高張力ボルト特有の乾いた音を奏でる。

抜けていく力の曲線にリニアに停止するボルトの動きを左手の指の腹で感じる。

かじる気がしない 大丈夫

今回は無事にシリンダーヘッドボルトを抜き、クソ重たいシリンダーヘッドをはがす。ピストンヘッドを見てびっくり。大袈裟じゃなくカーボンの厚さが1ミリはある。シリンダーヘッドの方も同様だ。

ピストンヘッドにたまったカーボン
シリンダーヘッドにたまったカーボン

これをはがせば、胸の奥に刺さった小さなトゲのように心を悩ませていた、いつでもかすかに聞こえるノッキングがなくなるに違いない。 ああ違いない

つぎにびっくりしたのが、フライホイールの重さ。外れた瞬間手首が壊れるかと思った。W400とW650のフライホイールを並べてみる。

W650とW400のフライホイールの違い

鉄の量が大違い。初めて乗った時のエンストはデフォルトと言わしめたW400と、5速1000回転からアクセルを開けても、ドコドコドコ走れてしまうW650の性格を如実に表している。

体重測定

W400のフライホイールの重さ2.9kg
W650のフライホイールの重さ4.8kg

W400が2.9キロで650が4.8キロ。

このW400のフライホイールを650に入れたら、エンジンのピックアップ鋭くなるんじゃないの・・・

悪魔が耳元でささやく

W650の良さが無くなるんだろうなぁ でもいつかやってみよう(・∀・)

W400エンジンをばらす3

分割されたクランクケース

W400エンジンをばらす
W400エンジンをばらす2の話の続き

クラッチハウジングの取り外し

うまくいかなかった自作クラッチホルダーの開き止めを補強した。これでだめならさすがに買うかとも思ったが、よくよく考えてみると、フロントスプロケットナットを押さえれば、クラッチのセンターナットは緩められると気づく。フロントスプロケットのナットがさらに締まっちゃうんじゃないのとも思うが、その時はその時。

27のコンビネーションレンチをフロントスプロケットナットにかけ、クラッチのセンターナットはインパクトで緩ますことに成功した。

インパクトでぎゅいん

ようやくクラッチ周りがはずれた

クランクケースの左側

さてクラッチとは反対側に目を移すと、エンジン前方にある逆さまおにぎり。

おにぎり

このおにぎりの具をはずすにも特殊工具が必要になる。フライホイールホルダーとロータープーラーだ。フライホイールホルダーはヤフオクでやっすいやつを発見したので買っておいた。問題はロータープーラーだ。

おにぎりの具

サービスマニュアルにふたつのサイズが書いてある。構造的にふたつのサイズを兼用できるとは思えないので、実際にばらしてネジのサイズを測るしかない。

左クランクケースカバーをはがすと、現れたフライホイール。早速フライホイールホルダーをセット。それにしてもこのフライホイールホルダーは安い。特殊工具界の百均価格。使い物になるか、ちょっと心配。

その心配をよそに、フライホイールホルダーは滑ることなくフライホイールを押さえ、センターボルトを緩めることに成功した。

安物フライホイールホルダーが活躍

続いて、ロータープーラーを取り付けるネジ部の直径を測ってみる。38ミリだ。ということは、サービスマニュアルにある二つのサイズのうち、M38×P1.5の方だ。

このロータープーラー、カワサキの純正部品で購入すると、1万円弱。そんな高いの買ってらんない。純正でなければ5000円ぐらい。どちらにしても高い。

作ろう

例によってミスミで検索。M38×P1.5のナット、M17用 厚み4.5 外径45ミリの大ワッシャー、M14のナット、M14 長さ55ミリのボルトを購入。しめて2000円ぐらい。3000円の節約。

 それらを重ねて溶接する。

ロータープーラー作成中

自作ロータープーラーの完成。

ロータープーラー作成中

フライホイールの取り外し

ロータープーラーで押されるクランクシャフトの先端は、フライホイールを固定するボルトのネジ穴になっている。このままでは押せないのでロータープーラーアダプターなるものを装着することになっているが、代わりにワッシャーを三枚通したM10のボルトをセット。

そして、フライホイールに自作ロータープーラーをかけ、手で締められるだけ締めたら90度ほど戻しておく。続いてM14の押しボルトを先端がロータープーラーアダプター代わりのボルトの頭に当たるまで締め込む。

ここからは、押しボルトとM38のナットに溶接したナットにレンチをかけて押しボルトを締めこんでいく。

むむむ

かなり締めたのに、フライホイールはビクともしない。さらに力を入れる。

いや これは無理だ

M14の二面幅が22で、手持ちの工具がなくモンキーでやっているのだが、柄が短く、力が入らない。

こりゃ、ダメか・・・

諦めかけていると、ふとした瞬間にゴロリと外れて下に落ちた。

わおっ( ̄▽ ̄;)

650の時は対策しないと

フライホイールがはずれると、その先にある大きなギアはセルモーターの回転をクランクシャフトへ伝えるもの。びっくりしたことに、このギアのスラスト方向の移動の規制はなさそうに見える。ギア側面が直にクランクケースに触れているんじゃないか?

冬の朝。まだ暗い中にエンジンをかけるのだが、キャブレターをCRに替えてから始動性が悪くなった。Wはセルを回し続けているときの音が、「キャーキャーキャー」とけっこう高い音がうるさい。これの原因はこのギアのせいかも。そうだとしたら、なんの対策もできないな。

クランクケースを割る

クランクケースを割るには、まずクランクケース上面のボルトを緩める。クランクシャフトまわりにクランクケース外周と、数多いボルトで固定されている。上面のボルトを抜き終わったら、クランクケースをひっくり返してオイルパンをはずす。この中にあるボルトを緩めて抜き取り。プラスチックハンマーでパコパコクランクケースを叩く。

当て木なんかも使いながら、クランクケースの上下が均一に離れていくように叩いていくと、位置決めのカラーが抜けたところで全開放。クランクシャフトやミッションを取り出して、W400のエンジンばらしは完了。

分割されたクランクケース
ミッション!
コンロッド

W400エンジンをばらす2

クラッチホルダーをセット

W400のエンジンの腰上までバラした話の続き。

右のクランクケースカバーをはがしてクラッチを露出させる。クラッチスプリングを押さえているボルトをはずすと、クラッチ板は簡単にとりされる。問題はここから。

クラッチハブはセンターロックナットでトランスミッションの1次側のシャフトに固定されている。このロックナットをゆるめるには、クラッチハブを押さえる特殊工具=クラッチホルダーが必要だ。この先クランクケースを全バラするとなると、更にいろいろな特殊工具が必要になってくる。出費は抑えたい。

出費を抑えながら腰下をばらしきることができれば、やってみたいことがある。それは400と650のトランスミッションの融合だ。

400と650は、ギアの構成が違う。ざっくり言うと400はワイド650はクロスとなっている。おそらく400は力の無さをローギアードで補い、スタートの低さを全体的にワイドにすることによっておっつけていると思われる。

トランスミッションのシャフト自体は、400も650も同一部品だということは確認している。400と650のギアを組み合わすことによって、400よりもワイドなトランスミッションが作れると思う。

走っていると、ついつい幻の6速へ左足をかきあげてしまう。ワイドにすることによってそれを減らすことができればと思う。それにはできる限り出費を抑えて腰下をバラしたい。


ということでクラッチホルダーを自作してみた。

素材は5ミリ厚の50×50のアルミLアングル。このアングルは会社にころがっていたもの。

なんとなくこんな感じじゃないのってJWCADで図面をかいてみる。

クラッチホルダーの図面
自作クラッチホルダー
自作クラッチホルダー

それをプリントして切り出し型紙とする。便利な時代だ。アルミ材を切るのは自分だけど。できあがったクラッチホルダーをクラッチハブに当てて微調整。さあセンターナットを緩めよう。

クラッチホルダーをセット

ガツッ!

クラッチホルダーの歯がクラッチハブのスプラインから外れてしまった。もう一度セットして、開き止めのビスを締め付け、センターナットにかけたスピナーハンドルとクラッチホルダーを絞り込むように近づけていく。

パキッ!

うわっ なんか飛んだ! 見ると外側のクラッチハウジングの爪が折れていた。クラッチホルダーがトルクに負けて開いて、クラッチハウジングに当たってしまったためだろう。

・・・

折れたクラッチハウジング

まあいい 650をばらすときには気をつけよう!^_^;

クラッチホルダーは開き止めの部分が曲がっていた。この部分を補強するか、諦めて既製品を買うしかなさそうだ。

折れ曲がった開き止めのように心が折れかかっている。夢のワイドトランスミッションは諦めるか・・・

時間がかかる特注製作のスプロケットを、通常のトランスミッションのギア比に合わせたものでザムに注文した。

W400エンジンをばらす1

W400エンジンの解体開始

今回のリア足回りの大改造とあわせてやりたいことが、エンジンの腰上のオーバーホールだ。650のエンジンを載せるときに気づいたのだが、排気ポートにカーボンが厚く堆積していた。おそらくシリンダーヘッドもピストンも同様だろう。

実はノッキング音がかすかだが常に感じられて気になるのだ。心にささったとげのようにアクセルを開ける際にノッキング音を探してしまう。これはきっとカーボンのせいだと思っている。

その腰上オーバーホールのエクセサイズもかねて、庭に放置されているW400のエンジンをばらすことにする。

W400エンジンの解体開始

シリンダーヘッドカバーは、650に載せ替える際に状態のいい400のカバーと替えたので、この400には650のカバーがついている。ボルトは仮締めなので、あっさりはずれる。

問題はここからだ。カムシャフトを外すためにベベルタワーをいじるのだが、マニュアルをチラッと読んだぐらいでは、まったく理解できない。

最後までばらせば分かるのだが、ベベルタワーの上下のパイプは、単なる保護パイプであって、ベベルギアそのものをどうこうする機構は全くもっていないのだ。この保護パイプは上下ともOリングを用いてはまっていて、中央のスナップリングで固定されているだけなのである。

ベベルギアの当りの調整は、ベベルタワー上下にある六角ナットとロックナットで行う。カムシャフトをばらす際は、上部の六角ナットを1回転ゆるませて、カムシャフト側のベベルギアからベベルタワー側のベベルギアを離してから作業する。この作業で、ベベルタワーのパイプはまったく関係ないことを理解していないと、いっしょにまわって「えっ えっ」ってことになるので注意。

ベベルタワー

このあたりを理解しておいて進めれば、無駄な時間はかからない。

ベベルケースのロックナットを緩めるために、今回は新たにフックレンチを購入した。ナップスに行ってどれにするか迷ったのだが、買うときにはきづかなかった機能を作業時に発見。ハンドルの途中に9.5ミリの差し込み角の穴があいている。ここにスピナーハンドルを差し込んで全長を延長できるのだ。 これは便利! きちんと計算すればトルクレンチで締付けトルクも管理できる。

フックレンチにスピナーハンドルを延長

上部ベベルギアを下にずしたら、カムシャフトをばらす。バルブの頭部に収められているシムは、今後650のエンジンを分解組み立てする時に使えるだろうから、大切にとっておく。

カムシャフト

続いてシリンダーヘッドのボルトを緩める。

固い・・・

エンジン単体、ごろっとした状態でバラしているので、大トルクで締められているシリンダーヘッドボルトを緩めるのは大変だ。クランクケースを足で押さえて、エンジンが回らないように、さらに倒れないように・・・

っつ!

腹筋つった。このボルトはフレームに載った状態か、専用の台を作って固定させないと無理だな。

露わになったカムシャフト

と思いつつも作業を進める。

しかしなんと。1本のボルトが緩める途中で動かなくなってしまった。Wのシリンダーヘッドボルトは、ヘッドだけでなくシリンダーまで一緒に固定していて、8本のボルトで締結されている。その8本の内側の4本は、シリンダー下方で露出しているのだ。しかもそのネジ穴は、前輪が巻き上げた砂粒をもろに受ける場所だ。なんでこんな構造に?!

パーツクリーナーのノズルをそのネジ穴に突っ込んで噴射する。砂粒が吐き出される。初めから、しっかりきれいにしてからやれば良かった・・・ 後の祭りだ

ねじ穴から出てくる砂粒

まったく動かなくなったボルトの頭を、ベビーサンダーで切り落とす。カムシャフトの受けが入り組んでいて切りづらい。

うわっ!

その受けを切ってしまった・・・ まあ、このヘッドは使わないからいいけど・・・

650のエンジンをばらす時は、入念にネジ穴を清掃してからやった方がいいな。

頭を失った長いボルト1本が間抜けに残った状態で、シリンダーヘッドとシリンダーがはずれた。うなだれるように並んだふたつのピストンがオーナーの気持ちを表しているかのようだった。

うなだれるピストン