エンジントラブルからボアアップと続き、まったく作業が進行していなかった、ZRXのタンクの流用へ向けての話 第一回目はこちら
ZRXのタンクを入手したのだが、このタンクにはタンクキャップがついていなかった。ヤフオクで検索すると、中華なタンクキャップが2000円台で出品されている。この安さは魅力的ではあるが、なんとなくメッキのキラメキが、現物を見るとチープだったりしそうなのと、鍵を1本化するのは怪しそうなので、純正のタンクキャップを購入することにした。ここで問題。
鍵を1本化するには、メインスイッチ、タンクキャップのキーシリンダー、シートロック、必要ならヘルメットホルダーが揃ったキーセットを買わなければならない。これが高い。4万円近くする。ヤフオクだと新品で3万円強。これは今回のカスタムで、大きな意味を持たないくせに高額なものだ。
しかも、ZRXのタンクキャップのキーシリンダーが含まれたキーセットのメインスイッチが、Wに合うかがわからない。メインスイッチはハンドルロックを兼ねているので、ここが違うとめんどくさい事になる。
いろいろ調べたところ、ZRXのメインスイッチとWのそれは、年代が同じようなネイキッドということもあって、まあまあ同じような形状に見える。これで勝負して、小加工ならよしとしてもいいかもしれない。
そう思っていたのだが、ふと思いついた。鍵を1本化する小細工している人はいないかと。検索してみると、いたいた。キーシリンダーをバラして、別の鍵であけられるようにしている人達が。先人たちよありがとう。
キーシリンダーの構造
先人たちのブログでキーシリンダーの構造を知ることができた。その構造を簡単に説明する。キーシリンダーは、その名の通り、筒状だ。この筒を回転することによって、解錠したり施錠している。今仮に、キーには鍵という機能はなく、ただ回転させるだけだとして、鍵特有のギザギザの無いものだとする。ただ、先端の角を落として、三角になっているとする。そこに鍵の機能を持たせてみよう。
まず筒に、回転を抑制する鉄片を備える。鉄片は筒の軸に垂直、つまり筒を輪切りにした断面にある。ここからはその断面の円を机の上に置いた紙に書いてあると想像してもらいたい。
鉄片は、その円の左右を半径の半分まで無くした形をしている。鉄片は上下に動くことができ、その距離は円の直径の20%ほどはみ出るぐらいだ。通常時はスプリングの力で下に最大はみ出たところで固定される。
キーシリンダーが納まっている穴側は、このはみ出た鉄片分だけの溝が掘られている。キーシリンダーを回転させようとしても、穴側の溝に鉄片が引っ掛かって動かない。これが鍵のかかった状態だ。
鍵をあける仕組み
紙に書いた断面図に戻る。鉄片には、差し込んだキーを受け入れる、鍵の断面と同じ大きさ(ある程度のクリアランスはあるだろう)の縦長の矩形の穴があいている。キーを差し込んでみよう。キーはシリンダーの中心に差し込まれる。矩形の穴は、下方に偏心しているので、キーが差し込まれると、キーの先端の三角のテーパーによって鉄片は上方に移動を開始する。三角が終わって、キーの幅が一定になると、鉄片の移動は止まる。この時の鉄片はシリンダーから上方にはみ出ており、穴側には上方にはみ出た鉄片を受け入れる溝が掘られている。
キーが最後まで差し込まれた。解錠しようとキーを回転させようとするも、上方に移動した鉄片が、穴の上方に掘られた溝に引っ掛かって回転しない。
ここでキーの鉄片と同じ位置を、鉄片がシリンダーの上にも下にもはみ出さない位置になれるように、切り欠いてみる。キーの抜き差しで鉄片がスムーズに動けるように、切り欠き位置まで斜めにカットするのは先端と同様。
鉄片がはみ出さなくなったことによって、シリンダーが回転するようになった。つまり、鍵が開いたというわけ。この鉄片がいくつもあるから、キーはギザギザしているのである。
キーシリンダー内の改造
鍵の1本化の実現には、この鉄片を数種類持っていれば容易そうなのがわかった。いま使っているキーで開く、使われていないキーシリンダー。実はそれがある。ヘルメットホルダーだ。
Wのヘルメットホルダーはシートレールを下から支えるフレームについている。しかし我がWのそれは、ZRX1100のスイングアームに換装した時に、ウインカーステーなどと一緒に、すっかり切り取ってしまったのだ。そのヘルメットホルダーから、キーシリンダーを取り出してみた。
使えるといいな。
タンクキャップなどと一緒に、タンクキャップキーシリンダーを購入した。手持ちのキーより、グレードが高い。こちらにあわせるのもありか? とも思ったが、メインスイッチをいじるのはめんどくさそうなので、元のキーにタンクキャップキーシリンダーをあわせることにする。
キーシリンダーの加工
これがキーシリンダー単体。

回転止めの鉄片、 鉄片と言ってもおそらく 真鍮なのだが鉄片と呼ぶ。このキーシリンダーには鉄片が5つあり、キーを差し込んでいない時は、すべて右に出ている。6つあるように見えるが、いちばん上は、キーシリンダーを固定するためのもの。付属のキーを差し込んでみる。

すべての鉄片が収まっている。これでキーシリンダーが回転できるようになったわけだ。続いて今使っているWのキーを差し込んでみる。

3番目と4番目は解錠できる位置に収まっている。1、2、5番の鉄片の加工をすれば W のキーで解錠できるようになるわけだ。鉄片は、1番は右、2番と5番は左にはみ出ている。キーは鉄片を左に押すので右に出ているということは 押しきれていない状態、 左に出ているということは 押しすぎている状態だということがわかる。
押しすぎている鉄片は削れば良い。押しきれてない状態が問題。鉄片は 肉盛りすることはできず、削ることしかできない。キーを差し込みきった時に全ての鉄片が 押しすぎている状態にすれば、削る加工だけでキーを解錠できるようになるというわけだ。
ここで仮に、解錠できる鉄片の位置を0とする。右にも左にも出っ張っていない状態だ。キーを差し込む前の鉄片の位置を-3とする。鉄片とキーにはそれぞれ鉄片を左に動かす力を持っている。鍵山が高い部分は移動力が大きく、低い部分は小さい。それぞれ3と1とする。
対して鉄片は、キーが入る穴が右に寄っていれば移動力が大きく、左に寄れば小さくなる。それぞれ3と1とする。キーを差し込んだことによって鉄片が移動する位置は以下の式で表される。
鉄片の移動位置 = 元位置(-3) + キーの移動力 + 鉄片の移動力
左に押しきれていない1番は、鍵山も鉄片も移動力が1だった。-3 + 1 + 1 = -1 となり、鉄片は0の位置に到達できない訳だ。
2番と5番の鍵山を見ると、5番は2ぐらいの移動力を持ってそうだ。仮に2だったとして、1番の鉄片と交換すると、-3 + 2 + 1 = 0 となる。1番は、5番の鉄片を使い、-3 + 1 + 2 = 0 になるのではないかと思われる。やってみる。

思った通り、1番と5番は0の位置に収まった。加工は2番だけで済む。先の細い鉄ヤスリを使って、鉄片の穴の左側を削り、鉄片の収まり具合を確認しながら移動力を下げる。

すべての鉄片が0の位置に収まった。

新品キーシリンダーを、今まで使っていたキーで開くようになったので、タンクキャップに装着した。

これで鍵の一本化は成功した。