アクスルシャフトの大径化対策その2 -W650を倒立フォーク化-

ディスクもキャリパーもブレンボ!

ZX-6Rのフロントフォークを使うことによって、スラクストンのホイールベアリングを、Φ20からΦ25へ変更する話の続き。前の話はこちら

注文していたベアリングやカラーが届いた。

大径化対応のオイルシール、ベアリング、厚みを補うカラー

そろそろ作業にかかろうかと思うのだが、どんなことに注意したらいいか、念のため確認してみよう。

ネットで検索してみた。

意外なことがわかった。何十年か前にもやったことがあるが、その時知っていたか、いささか怪しい。どういうことかというと、片側のベアリングの位置は、左右のベアリングの間にあるディスタンスカラーで決定するということだ。

ベアリングなんて、ホイールに止まる部分があり、そこまで押し込んで位置が成立するものだと思ってた。

では、ディスタンスカラーで片側のベアリングの位置が決まる構造だと、なにを注意しなければならないか? ディスタンスカラーで位置が決まる側のベアリングは、アウターレースとインナーレースの両方を押して圧入しなければならないということだ。

ベアリングはディスタンスカラーまで到達し接触する。ベアリングはスラスト方向にミクロレベル(?)の遊びがあり、当然正しい位置はその遊びの中心だ。だが、アウターレースだけ押して圧入していると、遊びの中心を通り過ぎて「アウターレースの外側寄り – ボール – インナーレースの内側寄り」という接触ラインができあがる。そこには、不必要な摩擦が生じることになるということだ。

アウターレースの外径にあうソケットのこまを探せばいいと思っていたがそうはいかないことがわかったので、ベアリングの外径より少し小さい外径で、内径より少し大きい内径のドーナツ状の板を、厚めのワッシャを加工してつくった。

アウターレースとインナーレースを同時に押せる厚いワッシャー

ベアリング圧入

まずは固定側のベアリングを圧入する。圧入に使うのはM12の全ねじボルト。

M12全ねじボルトを使って、ベアリングを圧入する

こちら側のベアリングは、ホイールの壁に当たるまで入れるだけなので気を使うことはなし。続いてそのベアリングを固定するためにスナップリングをはめるのだが、アクスルシャフトが太くなることによって変更したベアリングは、元のベアリングより3ミリ薄い。これは、中のボールが小さくなるから当然のこと。

左:純正ベアリング 右:大径化ベアリング

その不足した厚みを補う特注のカラーを入れる。

不足したベアリングの厚みを補うカラーを挿入

これはもちろんミスミさん。カラーを押さえるようにスナップリングをはめる。きちんと溝に入ったか、しっかり確認する。

スナップリングをはめ終えたらホイールをひっくり返し、ディスタンスカラーを入れる。これももちろんミスミさん。下の写真は外側のカラーとディスタンスカラー。外側のカラーは無電解ニッケルメッキで、ディスタンスカラーは処理無しとした。

外カラーとディスタンスカラー

そしてもう一方のベアリングをセットし、この作業のために加工したワッシャをあてがって、圧入開始。

手ごたえを感じてやめる

圧入用のボルトをばらして中をのぞくと、ディスタンスカラーが斜めになって止まっている。やばいやばい すぐにやめてよかった。アクスルシャフトを差し込んで、斜めになったディスタンスカラーをまっすぐに直す。再度全ねじボルトをセットして、最後まで圧入する。

ベアリングを入れ終わったら、オイルシールも同様に全ねじボルトを使用して圧入した。

ベアリングとオイルシールの圧入完了

キャリパーとディスクの確認

アクスルシャフトの大径化への対策が完成したので、ようやくフロントフォークにタイヤを装着できるようになった。ここで確認しておきたいのが、キャリパーとディスクの関係。ディスクが、キャリパーの溝の中にキャリパーに触れることのない位置にあるか。これはキャリパーのアキシャル方向の位置。

また、ディスクの正しい位置にブレーキパッドがあるか。ラジアル方向の位置も重要だ。早速組み立ててみる。

ディスクもキャリパーもブレンボ!

おさらいで書いておくが、各部品の流用元はこうなっている。

フロントフォーク ZX-6R(2007)

フロントホイール スラクストン(水冷モデル)

ブレーキキャリパー GSX-R1000(2005)

ブレーキディスク デイトナ675R(2014)

ブレーキディスクはデイトナ675R用として出品されていたが、パーツリストを見る限りスラクストンと同じ部品。ちなみにディスク自体にオフセットは無く、まったいら。アキシャル方向は、これだけの多メーカーの組み合わせながら、ほとんどキャリパーの中心にディスクがきている。

キャリパーとディスクのアキシャル方向の位置は問題なし

想定外だったのがラジアル方向。ディスク径はZX-6Rが300Φでスラクストンが310Φ。なので、キャリパーにカラーかませれば解決。と思っていたのに、ブレーキパッドがディスクからはみ出ている・・・ 測ってみると、きっちり5ミリ。

ブレーキディスクとブレーキパッドの位置があっていない

これは痛い。送料含めて49000円で買ったブレンボキャリパーが使えないなんて。

どうすりゃいい?

ステムシャフト圧入 -W650を倒立フォーク化-

アンダーブラケットにステムシャフトを圧入する

ミスミに注文していたステムシャフトの調整用カラーが届いた。

アンダーブラケット側はブラックアルマイトで、トップブリッジ側はホワイトアルマイトだ。なんでこうしたんだっけ? どっちもブラックでよかったような。

測定してみると、ほとんど指定の大きさに作られていた。加工公差の-0.2で、求めている寸法に近くなる作戦は失敗したようだ。これはもう手作業で削るの確定だ。

圧入方法の模索

ステムシャフトを抜いた時のように、油圧ベンダーを使ってステムシャフトを圧入する。

ステムシャフトを抜いた記事はこれ

ただ、その時はプレスされる物が短かったので、油圧ベンダーのプレートに空いている穴に溝型鋼を差し込んで、そいつで油圧を受け止めたが、今度は少なくともステムシャフトの長さ分は、油圧を受け止める受けを延長して作らなければならない。

油圧が4tとして(根拠は無い)それに耐える引っ張り強度のLアングルを柱として、それに耐えるせん断強度のボルトかぁ なんか結構、金かかりそうだな・・・

と思っていたある日の通勤電車の中。なんか昨日呑みすぎたからだりぃ スマホを見るのすら疲れるので、ドア横の椅子の仕切りによっかかって目を閉じ、思考をめぐらす。

油圧を簡単に受け止める方法はないか?

はっ!

単管パイプで組めば材料代かからないじゃん!

会社にたくさんある単管パイプと直交クランプで、門型プレスを作るのだ。

ステムシャフトに調整用カラーを圧入

日曜日に出社。早速、単管パイプ門型プレスの作成を始める。元気よくと言いたいところだが、昨夜は花見で呑みすぎ。軽いめまいすらする。

棚から2本出した単管パイプに、油圧ベンダーのプレートの穴を利用して油圧ベンダーを固定する。圧を受けるのはこの単管パイプの他にもう2本。接触箇所は合計8箇所だから、4tとして1箇所500キロ。それぐらいは大丈夫だろう。

その4本の両端から合計8本の柱を下げて、40センチ下に油圧を受け止める台を作る。書くとあっという間だが、ああだろこうだろ3時間はかかってしまった。倒れそうだ。

単管パイプ門型プレスが完成した。

単管パイプと油圧ベンダーで作った門型プレス

ここからが本番。まずはカラーのツバの外径を少し小さくする。これは基本外径とツバの外径の差のミニマム値があり、どうしてもほしい数値で作ってもらえなかったため。ここは精度がいらないところなので、グラインダーでさっさと削る。

次に内径を測定する。27.9ミリ指定で、測定値は28ミリ。ノギス補正で28.1ミリだ。内径の目標値は28.13ミリなので、このままいけるかも。試しに入れてみることにする。

カラーをトーチで炙る。

圧入前にトーチであぶる

熱膨張の計算だと、たいして大きくはならないけど念のため。アチアチやりながらシャフトを通して、押しパイプをかぶせて単管パイプ門型プレスにセットした。

コスコス 油圧ポンプのレバーを上下させる。クッションで敷いておいた薄ベニヤに、ステムシャフトがめり込んでいく。

なんかこれはヤバイ

導入部分でこうだと、最後までカラーを押しきれない未来が浮かんできた。油圧をリリースして、ステムシャフトを取り出す。カラーは手で入れたところからたいして進んでいないところで、ガッチリ止まっている。プレスを使って抜くも、結構極まってた。

内径を削って広げることにする。カラーの内径より細いパイプにサンドペーパーを両面テープで貼り付け、カラーを通し、少しづつ回転させながら軸方向に反復移動させる。

調整用カラーの内径を拡大する

目標は0.1ミリ。アルマイトがきれいになくなるころに、0.1ミリ削れた。ステムシャフトに入れてみると、アンダーブラケット部分よりかすかに1段細いベアリング部分との手ごたえが軽くなっていた。これでいってみるか。

表面を滑らかにするために600番のサンドペーパーで仕上げて再度挑戦。ガストーチで炙ってからステムシャフトを通し、押しパイプをかぶせて単管パイプ門型プレスにセットした。

この段階で、さっき止まったところまで入っている。これはいく気がする。コスコス、油圧ポンプのレバーを上でさせる。あれ、進まないか? と不安になってきたところで、「コン」といって油圧が小さく解放された感じがした。カラーが入り始めたようだ。

ステムシャフトに調整用カラーを圧入する

その後も、レバー操作4回に1回のペースでコンコン、カラーは入っていった。最後はステムシャフトの抜け止めのスナップリングに当たり、そのスナップリングがカラーに押されて回転しなくなったのを確認して、圧入を完了とした。

ステムシャフトに調整用カラーの圧入完了

アンダーブラケットにステムシャフトを圧入

この段階でカラーの外径を測定する。35.62ミリだ。元が35.5ミリだったから、0.12シマリばめということか。このアンダーブラケットにささっていたステムシャフトは35.33ミリ。これは結構きつかった。アンダーブラケットの内径から、はめあい公差により算出される数値は35.2016ミリぐらい。間をとって、35.25ミリをめざして削っていこう。

少しづつ回しながら、鉄ヤスリで削ること30分。ようやく35.3ミリになったところで、紙ヤスリに持ち替える。鉄ヤスリの削り目を消したころに1度計測し、さらに削り続けたまに計測するがほとんど変化が無い。これは狙いぎりぎりまで鉄ヤスリだな。

調整用カラーの外径調整が終了

腱鞘炎が悪化することが懸念されるこの作業もようやく終わりか? ついに35.25ミリになった。アンダーブラケットにさしてみる。やばい、少しスコっと入った( ̄▽ ̄;) 35.3ぐらいで、1度ためしておくべきだったか・・・

アンダーブラケットにステムシャフトを圧入完了

まあ、カラーの先端はオイルシール部分だから、ちょっとゆるくても問題なし!

アンダーブラケットにステムシャフトを圧入完了

単管パイプ門型プレスにセットして圧入。コンコン言うことなく、すうーっと圧入は完了した。

トップブリッジ側の調整カラーも、同様の作業を行う。

トップブリッジと調整用カラー

調整用カラーはトップブリッジ上面から0.5ミリ下がりを設定していたのだが、0.8ミリだったので調整用カラーを押しはずして削り直し。

圧入したが、調整用カラーとトップブリッジ上面の段差が想定より大きい

3度目で、きっちり0.5ミリとなり、今回の倒立フォーク化、いちばんの難所を乗り越えた。

トップブリッジに調整用カラーを圧入完了

はめあい公差 -W650を倒立フォーク化-

はめあい=穴と軸の大きさの関係

トップブリッジのねじれも修正できたので、ステムシャフトを圧入する準備にかかろう。

手に入れたZRX1100のステムシャフトがかすかに歪んでいたので、ショップにお願いすることができなくなっていた。そうなるとカラー(ステムシャフトの径の違いの調整用)も自分でなんとかしなければならない。内径、外径はどうすればいいのか? ネットで検索して勉強した。

穴に棒(軸)をつっこむのに、その大きさ太さ加減を「はめあい」というらしい。「はめあい」と打って確定すると、予測変換にハートマークが出る(笑) ゆるいのがスキマばめ。きついのがシマリばめ。ふたつの中間が中間ばめだ。

はめあいには細かくレンジが決められていて、公差クラスと呼ばれる。穴の場合は「H7」のように、大文字のアルファベットと数字で表現され、軸はアルファベットが小文字になる。アルファベットが若い方が緩めとなり、数字が大きいほど最大値側の精度が下がる。

この公差クラスを目安として、ステムシャフトの直径調整用カラーの寸法を決めていこう。

ステムシャフトとアンダーブラケットの採寸

はめあい交差は1000分の1レベルのスケール感になるので、ノギスではなくマイクロメーターが必要になる。とはいえマイクロメーターでも100分の1までだが。

ZRX1100のステムシャフトの圧入部を測定する。25.18ミリ。これは3か所を測定したものの最多値。

アンダーブラケットの穴径を測定する。これは相変わらずノギス。穴径マイクロメーターは、安いものが無く、手が出なかった。この辺がDIYのあまいところ。35.1ミリだった。さて、この穴に対してどれだけの太さのステムシャフトが圧入されていたのか、このアンダーブラケットから押し抜いたステムシャフトの軸径を測定する。

35.33ミリ はめあい公差表で確認すると、とんでもないシマリばめとなる。確かにきついのはきつかったが・・・

ここはノギス補正で、穴径には0.1ミリ足すことにしよう!

それでもまだ軸径マイナス穴径は、0.13ミリもある。ちなみに、35Φレンジの

軸の公差は、u6 +76,+60となっている。大きい数字で比較しても、0.076ミリに対して0.13ミリだ。公差表にはp6を超えるシマリばめはかかれていない。ということで、目指す公差はu6としておこう。

調整用カラーの内径

使用するZRX1100のステムシャフトの外径が28.18ミリ。28Φレンジの公差は、U7 -40,-61となっているので、中間値の-50を使用して、

28.18 – 0.050 = 28.13

となるので、内径の目標値は28.13ミリとなる。

調整用カラーの外径

アンダーブラケットの内径が35.2ミリ。公差はu6にするということだったけれど、ここはひとクラス下げて t6 +64,+48とする。いつかこのシャフトを抜く日が来るとしたら、調整用カラーがアンダーブラケット側に残らないようにするためだ。中間値の-56を使用して、

35.2 + 0.056 = 35.256

が、外径の目標値になる。

いや違う

調整用カラーはステムシャフトにシマリばめで圧入されているので、元の外径より公差分太くなっている。なので、

35.256 – 0.050 = 35.206

となり、35.206が外径の目標値になる。

さて、これをミスミのCナビで注文するのだが、さすがのミスミも、ここまで半端な数字は指定できない。精度が高い指定でも、ベースのサイズが0.5ミリ刻みで公差はH7だ。これをあえて精度が低い指定を選んでみたりして、いちばんよさそうなのを決定。あとは、来てみてやってみて、ダメならいつもの手作業で修正して、なんとかしてみよう!