クランクケースカバーを仕上げる -W650エンジンのレストア&モディファイ-

開口があり、かっこいいW400のスプロケットカバー

クランクケースの両側に取り付くカバーを綺麗に加工する。バフで鏡面仕上げも考えた。ただ、以前XLR250のシリンダーヘッドカバーをバフ仕上げしたのだが、ツルツル、ピカピカを維持するのはなかなか大変で、結局そのうち白く曇らせてしまった。

そんな経験を踏まえて、今回はヘアラインぐらいの仕上げで、耐熱クリアを吹いて終わりにすることにした。

作業はベビーサンダーでやるから簡単。昔は耐水ペーパーでゴシゴシ磨いていた。指は痛くなるし、さきっちょが灰色に染まるし大変だった。

一旦軽く鏡面仕上げっぽくなる。腐食していた部分はうっすら跡が残るが、深追いはしないでおこう。

鏡面仕上げぐらいまで磨かれたクラッチカバー

右側のベベルギアケース、クラッチカバー、左側のおにぎりは形が簡単なので、作業はあっという間。ところが、スプロケットカバーはそういかない

W650のスプロケットカバーはのっぺりとして磨きやすそう。

のっぺりとしたW650のスプロケットカバー

だが、うちのWはW400のスプロケットカバーを使っている。W400のスプロケットカバーは、いくつもの開口があり、かっこいいのだ。

今までは純正のままの黒で使用していたが、これを機に塗装をはいで、アルミの地肌を出す。まずは剥離剤の代わりにブレーキフルード漬けにしておく。

1週間ほどほったらかした後に見てみるも、まったくなんの変化もなし。なんちゅー塗膜。仕方なくベビーサンダーで作業を始めるが、厚い塗膜に相まって、いくつもある開口のおかげで作業が遅々として進まない。

苦労の末に半鏡面まで持っていき、ヘアラインの流れに頭を悩ませつつも、下処理は完成。耐熱クリアを吹くと、想定していなかった、深みのある雰囲気に仕上がった。

開口があり、かっこいいW400のスプロケットカバー
深みのある感じに仕上がったクランクケースカバー
深みのある感じに仕上がったベベルギアケース

シリンダーの塗装

 そのモデルにもよるがw650のシリンダーの色は黒になっているこれはシリンダーを黒にすることによって、レベルタワーの存在感を際立たせようというカワサキの狙いだと思っている。

それはそれで悪くないのだが、インスタグラムでシリンダーがシルバーのW800の写真を見ると、クランクケース、シリンダー、シリンダーヘッドの繋がりが出来上がり、バーチカルツインらしいエンジンの存在感が感じられるのだ。

シリンダーはシルバーだろ

ということで、シリンダーをクランクケースと同じ耐熱シルバーで塗装した。左右のカバーとは違い、相変わらず平坦な感じの耐熱シルバー。クランクケースからの繋がりで、この平坦さがどれほど見た目に影響を与えるか心配だ。

耐熱シルバーを吹いたシリンダー

クランクケースを組み立てる -W650エンジンのレストア&モディファイ-

つぶれたプラスチゲージを測定

エクストラスペシャルワイドミッションが完成したので、クランクシャフトとバランスシャフトのメタルクリアランスを測定する。

この測定にはプラスチゲージというものを使うのだが、持ってないのでアストロプロダクツ買いに行く。店について見ると、プラスチゲージは測定範囲によって3種類あった。どれが適しているのかわからない。

しかも一つ800円位とそこそこの値段。たいして使うものでもないので、全部買いするほど富豪ではない。今日買うのは諦めて店を出る。

帰宅してからサービスマニュアルで測定すべき、クリアランスを確認する。それをもとに後日アストロプロダクツでプラスチゲージを購入。

プラスチゲージとは何か

W650のクランクシャフトには、滑り軸受が採用されている。滑り軸受けというのは、メタルという金属で軸を受けていて、軸とメタルの間には微小な隙間があり、オイルで潤滑されている。

この隙間がメタルクリアランスで、狭すぎると油が切れて熱を持ち、広過ぎるとガタが発生し振動する。この隙間がどれぐらいあるかを測定するのがプラスチゲージだ。

測定方法はいたって簡単。プラスチゲージを軸とメタルの間に挟む。

プラスチゲージをセット

規定トルクで組み立てて分解する。

トルクレンチで規定トルクで締め付け

するとプラスチゲージは潰れて広がっている。その潰れた幅をプラスチゲージのパッケージにプリントされた目盛りでクリアランスを読み取る。

つぶれたプラスチゲージを測定

あれだな 挟んで潰れる細いのがプラスチで、パッケージの目盛りがゲージだな。 うんうん

クランクシャフトの4か所とバランスシャフトの2か所を測定して、規定の範囲に収まっていることを確認。さらにコンロッドのメタルクリアランスも確認する。

コンロッドのメタルクリアランスをプラスチゲージで測定

思わぬ干渉

いよいよクランクケースを組み立て始める訳だが、その前にバランスシャフト、クランクシャフト、トランスミッションを入れた状態で仮組みをしてみる。

トランスミッションをニュートラルにして、ロアケースから垂れ下がった3本のシフトフォークを、それを待ち構えるアッパーケースに収められたギアの溝に入れるのだが、これがなかなか難しい。

何回か仕切り直してようやく収めるも、何かおかしい。上下のクランクケースが閉じきっていない。明らかに何かが挟まっている様子。

クランクケースを開いて中を確認してみると、ギアの歯が当たって傷ついているところがあった。クラッチレリーズを取り付けるボスが、クランクケースの中にポリープのように飛び出ている。

当たっているのはドライブシャフトの1速ギア。W400のギアに変えたから大きくはなっている。ただクラッチレリーズは、W400にだってある。一体どういうことだ?

新聞にくるんで、ダンボール箱に突っ込んであったW400のクランクケースを引っ張り出す。なんと、ボスがない。潔いほどにきっぱりとない。

W400にはボスが無い

なるほど、じゃあ切ろう(´・ω・`)

しっかり養生して、ポリープ切除手術を開始。ルーターを使って削っていく。良性のポリープだったので、全摘せずに干渉する部分だけ切除。

ポリープの切除手術

クランクケースを塗装する

パーツクリーナーを使っても落とせない染み付いた汚れや、前輪が巻き上げた小石などで傷ついてしまったクランクケースを塗装するのに使うのは、つや消しシルバーの耐熱スプレー。大昔にXLR250のクランクケースをこの耐熱つや消しを塗ったことがあるが、なんとなく奥行きのない平坦な感じになってしまったのを覚えている。はたして今回はどうなるだろう。

なかなか面倒くさいマスキングを終えて、スプレーを吹く。やっぱり平坦なしあがりに。なんでこのスプレーはこんなにも平坦になるんだろう。多分メタリック感を出す粒々の大きさが相当細かいんだろうな。だから均一な銀になってる。平坦なんて言ったらメーカーは怒るな。

クランクケースの塗装

クランクケースを閉じる

クランクケースの合わせ面は液体パッキンを使う。このパッキン、可使時間が短いので手際の良い作業が必要。そして、薄く塗らなければならないらしいのだが、薄いって具体的にどれぐらいのことなんだろうか?

うすーく丁寧に、しかし手早く発見、無理を得るとクランクケースを食べ、クランクケースを閉じる合わせ面が練習密着しているのを確認してからボルトを・・・

ボッ ボルト!

なんと、手早く作業をしなければならないというのに、ボルトが分解した時にビニール袋に収めたままになっていた。ロアケースのボルトも含めると、その本数は30本近い!(汗) こいつらを1本1本掃除して、モリブデングリスを塗って締め付けなければならない・・・

先の読めない自分を呪いながら、ボルトをふきふきグリスを塗り塗りするのであった。

トランスミッションをいじる -W650エンジンのレストア&モディファイ-

トランスミッションのドッグクラッチ

完全にばらし終えたW650とW400のエンジン。トランスミッションに注目していく。

ボールベアリングの滑り

トランスミッションのベアリングのはめあい部分のクランクケースが擦れて光っている。これはボールベアリングが滑っているのではないか?

ベアリングのクリープで擦れて光ったクランクケース

トランスミッションはクランクケースにボールベアリングで支えられている。このボールベアリングには溝が掘られ、クランクケースの溝と共にはめられたキーによって、スラスト方向の動きが抑制されている。

回転方向は上下のクランクケースに挟まれていて、その締め付け力によって固定されている。よって構造的にはこの滑りを抑えることは出来そうにない。

この滑りは、調べてみると、クリープと呼ぶらしい。無い方がいいらしい。そりゃそうだろう 接着剤で固定するのもありらしいので、組み立てる時はネジロックで固定することにしよう。

ポジティブニュートラルファインダー

Wのトランスミッションにはポジティブニュートラルファインダーという、停止時に1速からニュートラルに入りやすい機構が設けられている。これによって信号待ちでニュートラルに入らず、1速と2速を行ったり来たりすることがない。

逆にこれがあるおかげで、動いていない時に2速以上に入れることができない。押しがけする時、1速よりも2速の方がかけやすい。

大体止まる時は1速まで下げずに2速からニュートラルに入れてるし、そもそもそんな機能がついてるとは知らないから、1速からニュートラルに入れる時も足の操作を加減してるし。

ポジティブニュートラルファインダーいらねー

じゃあ、どうやってポジティブニュートラルファインダーの息の根を止めるか。ポジティブニュートラルファインダーがその機能を実現するために特別に用意されているものは、直径4ミリぐらいのボールが三つだけ。

このボールがギアのシャフトに接する面に120度刻みで埋め込まれている。ギアが回転している時、つまりバイクが動いている時は、ボールは遠心力によって穴の中に隠れている。

ポジティブニュートラルファインダーの球

バイクが止まるとギアの回転が止まり、遠心力を失ったボールは下方に移動する。シャフトにはボールの直径の半分の深さの溝が掘られており、移動してきたボールはその溝にはまる。

ポジティブニュートラルファインダーの溝

ギアはトランスミッションのシャフト上を軸方向に、1速の位置、ニュートラルの位置、2速の位置と移動する。シャフトの溝は1速の位置とニュートラルの位置の間に掘られているため、ボールがつっかえてしまい2速の位置までギアが動くことができない。

このボールにはエンジンの外へ出ていってもらおう。

エクストラスペシャルワイドミッション

W400とW650のミッションを組み合わせて、エクストラスペシャルワイドなミッションを作る。使うのはW400の1速2速、W650の3速4速5速だ。1速はW400で5速はW650で決まり。逆だとクロスになってしまうから。

境目になるところのギア間の減速比の変化率が大きくなってしまうので、どこを境目にするかが悩みどころ。低いギアの方がつながりの悪さをパワーで何とかしてくれるのではないかと思うのと、1、2間より2、3間の方が無理がなさそうなのでここにした。

アッパークランクケースの上に組み替えたドライブシャフトとアウトプットシャフトを仮組みして動作を確認する。

アッパーケースに仮組み

各ギア、きちんと噛み合っている。変速動作を再現してギアを左右に移動させて、隣のギアとドッグクラッチでの噛み合いも問題なさそうだ。

トランスミッションのドッグクラッチ

念のためロアーケースに組んでみると、なぜかアウトプットシャフトが収まらない。よく見るとキックシステムのギアと1速のギアがぶつかっている。

なんで?

ああ そうか 

キックペダルを踏み下ろした回転力は、アウトプットシャフトの1速ギアを回転させる。このギアはニュートラルの時はアウトプットシャフトとは噛み合っていないのでアウトプットシャフトは回転しない。回転力はアウトプットシャフトと噛み合っているドライブシャフトの1速のギアを回す。このギアはドライブシャフトそのものなので、ドライブシャフトが回転し、クラッチを経由してクランクシャフトを回転させる。

エンジン後部に備わったキックシステム

つまりキックシステムと関わる1速ギアは、W650のものでなければならないのだ。

まじか・・・

エクストラスペシャルワイドミッションのポイントは、W400の1速ギアを使うことだというのに。

はたと思いつく。

W400用キックオプションってあったじゃん

すぐにカワサキの純正部品を調べてみると、アッセンブリーでは廃番になっていたが、スパーギアだけはまだ売っていた。ついでにW650用のキックスパーを調べてみると、こちらは廃番。部品が入手できなくなっていくのは怖い。急いで注文。

届いたW400用キックスパーギアと、W650のそれ。大きさが違う。

左がW400のスパーギアで右がW650のそれ

これを組み込んでエクストラスペシャルワイドミッションの完成。しかしこのセットでいくと、ザムに特注しているリアスプロケットの丁数では合わないことに気づく。だめもとでザムの担当者に丁数の変更願いをメールしてみる。

数日後

まだ製作していなかったということで、なんとOK。助かった(;^ω^)

※追記 このミッションの組み合わせは、まったくお勧めできません。いいところもありますが、悪いところがものすごく悪いので、決してまねしないでください。

エンジン分解 -W650エンジンのレストア&モディファイ-

W650とW400のフライホイールの違い

W400のエンジンがばらし終えたので、続いてW650のエンジンの分解を始める。

W400のエンジンで練習しておいたおかげで、ベベルタワーの分解にも手こずることなくカムシャフトまで外し終える。

続いて、シリンダーヘッドボルトを緩めるわけだが、8本あるボルトのうち、内側4本がエンジンの外部に露出している。そのため、前輪が巻き上げた砂つぶなどがネジ穴に入り込む。そのせいでw400のエンジンをばらした時は、このシリンダーヘッドボルトの1本がかじってしまい抜けなくなってしまった。

ネジ穴にCRC556を吹き入れる。それをパーツクリーナーで吹き飛ばす。それを何度も繰り返す何度も何度も繰り返す。パーツクリーナーを吹くたびに出てきた黒いツブツブが、一切出て来なくなったところでボルトを緩めはじめる。

ボルトを決められた順番通り、少しずつ少しずつ緩めていく。スピナーハンドルによってかけられた反時計回りの力に、ボルトは耐え切れずほんの少し回転し「ティン」と高張力ボルト特有の乾いた音を奏でる。

抜けていく力の曲線にリニアに停止するボルトの動きを左手の指の腹で感じる。

かじる気がしない 大丈夫

今回は無事にシリンダーヘッドボルトを抜き、クソ重たいシリンダーヘッドをはがす。ピストンヘッドを見てびっくり。大袈裟じゃなくカーボンの厚さが1ミリはある。シリンダーヘッドの方も同様だ。

ピストンヘッドにたまったカーボン
シリンダーヘッドにたまったカーボン

これをはがせば、胸の奥に刺さった小さなトゲのように心を悩ませていた、いつでもかすかに聞こえるノッキングがなくなるに違いない。 ああ違いない

つぎにびっくりしたのが、フライホイールの重さ。外れた瞬間手首が壊れるかと思った。W400とW650のフライホイールを並べてみる。

W650とW400のフライホイールの違い

鉄の量が大違い。初めて乗った時のエンストはデフォルトと言わしめたW400と、5速1000回転からアクセルを開けても、ドコドコドコ走れてしまうW650の性格を如実に表している。

体重測定

W400のフライホイールの重さ2.9kg
W650のフライホイールの重さ4.8kg

W400が2.9キロで650が4.8キロ。

このW400のフライホイールを650に入れたら、エンジンのピックアップ鋭くなるんじゃないの・・・

悪魔が耳元でささやく

W650の良さが無くなるんだろうなぁ でもいつかやってみよう(・∀・)