2本目のトルクロッド -ドラムからディスクの改造車検-

2本目のトルクロッド

トルクロッドを作ったはいいけれど、加工の途中で失敗、おまけに強度不足だということがわかった。

2本目のトルクロッド

まずは18995.2Nの力に耐えるロッドエンドベアリングを探す。M10限定で探していたが、絶望的にない。もはやこの、端部をロッドエンドとする構造そのものを諦めるしかないと思わせた。

ダメ元でM8まで検索の幅を広げると見つかった。この製品は現在売られているのはM8のみのよう。ということは18995.2Nのせん断力に耐えるM8のボルト(理想的にはピン)を探さなくてはならない。

取付ボルトのせん断強度

トルクロッドの取付ボルトには、せん断応力がかかる。どれだけのせん断応力に耐えるかどうかは、許容せん断応力×断面積で出る。まずはM8のボルトの断面積を計算する。

M8のボルトの谷径はJISで6.6ミリとなっているので、

(6.6*6.6*3.14)/4=34.2mm2

となる。耐えなければいけないせん断応力は18995.2Nなので、

18995.2/34.2=555.42N/mm2

となることから、許容せん断応力が555.42N/mm2以上のボルトを使えばいい。

ところが、諸元表に許容せん断応力が書かれていることは少ない。そんな時は許容引っ張り応力の60%を許容せん断応力として計算するらしい。よって

555.42*100/60=925.7N/mm2

となり、925.7N/mm2以上の許容引っ張り応力のボルトを探す必要がある。これは強度区分10.9のボルトで解決。

トルクロッドの本体=アルミ丸棒の強度

トルクロッドの強度を検討するにあたって問題になったのが、調質による強度の変化だ。調質とは、熱処理による強度のレベルとでもいうものだろうか。よく言われる400N/mm2を超える許容引っ張り応力は、そのレベルの中でも高い方に位置する。

熱処理なんてする知識も設備もない。そうなると、調質のレベルは何になるのかというと、下から2番目のF。こいつの許容引っ張り応力は、はっきりしたものを見つけられなかったが、およそ180N/mm2という数字を採用するらしいことがわかった。丸棒は直径16ミリのものを使用すると、その断面積は、

(16*16*3.14)/4=200.96mm2

となり、引っ張り強度は、

200.96*180=36172.8N

となり、18995.2Nを大きく超えているので問題ない。

ロッドエンド取付部のねじ山の強度

ねじ山の強度とは、ねじ山がせん断されて、ねじがすっぽぬけないかということ。同一素材だったら、雌ねじよりも雄ねじが弱い。これは、せん断されるねじの根本の長さが長いから。ただし今回作るトルクロッドは、雄ねじであるロッドエンドの引っ張り強度980N/mm2に対して、雌ねじの2017丸棒の引っ張り強度は180N/mm2なので、雌ねじ側の強度を検討する。

トルクロッドの雌ねじの谷径が8mm

トルクロッドの雌ねじのピッチが1.25mm

ロッドエンドとトルクロッドのかみ合い長さが16mm

A2017のせん断応力を125N/mm2とすると、

8*3.14*1.25*(16/1.25)*125=50240N

なので、トルクロッドにかかる力の1.6倍の18995.2Nを大きく超えているので問題なし。

図面を描いて。

できあがったトルクロッドがこれ。

2本目のトルクロッド

頼んだ材料が届いたら、組み立てただけのノン加工。

※この記事を書いてあらためてミスミでA2017を検索すると、調質T4のものもありました。そのうち新たに作り直すかもしれません。

一本目のトルクロッド -ドラムからディスクの改造車検-

1本目のトルクロッド

前回トルクロッドにかかる力を計算した。実はその計算をする前にトルクロッドを1本作っていた。

1本目のトルクロッド

今回の改造で使用したZX-10のキャリパーサポートと、ZRX1100スイングアームもそれぞれのトルクロッド取り付け位置がオフセットしていたため、新しく作るトルクロッドはアルミの棒の両端に、ロッドエンドベアリングを取り付ける構造とする。

スイングアーム側の取り付けボルトはM10だが、キャリパーサポート側の取り付けボルトはM8だ。キャリパーサポート側はニードルベアリング受けなので、場合によってはM10に変えることもできなくはない。

この頃、トルクロッドにかかる力を計算する方法がはっきり分かっていなかったため、強度検討の基となる力は、ネットで得たある数値だった。

その数値を基にM8のロッドエンドの強度を照らしてみると、問題ないことがわかったので、片方はM8、片方はM10のトルクロッドとする事にした。

トルクロッド本体は2017の六角棒が欲しかったのだが、ミスミになかったので、丸棒でつくることにした。しかも両端を別のサイズの雌ネジにする加工が注文できなかった。仕方ないので、品物が届いてからM8をM10に加工しよう。

届いたアルミ丸棒をボール盤にセットして、片端にM10の下穴をあける。タップがしまわれた箱からM10のタップを見つけ、先タップを取り出し、ロッドエンドのネジ部と合わせる。よし、同じピッチだ。

先タップ、中タップと切り、仕上げタップを立てかけた時に違和感を感じた。硬いよ・・・ 仕上げてる感じじゃない 新しいネジを切り始めてるよ!

目を細めて、タップの刻印を確認してみる。M10×1.5 間違いない なぜだ?

中タップの刻印を確認してみる。ううっ W3/8って・・・

誰だよ、M10のタップの箱に3分混ぜたやつは(怒)

2分ほど意識を失った後、どうするか考える。ダメになった分は2センチ。それを切って、ロッドエンドのネジのかかりを5ミリずつ減らして、設計より10ミリ短いトルクロッド。どうかなぁ やってみよう

やってみたら芯がずれた。これはダメだろー とりあえず完成させるだけ完成させて、Wに取り付けた。ちょっと沈んだ気持ちでリアタイヤを手で回すと、カチャンという音と共に何かが落ちた。なんとブレーキパッドだ。

見てみると、外側のブレーキパッドだった。内側のブレーキパッドはキャリパーベースのロッドに貫通されて保持されているので、絶対に落ちることはない。

よくよく観察すると、外側のブレーキパッドは、スライドするキャリパー本体の移動範囲の中で、全域保持されている訳ではないようだ。キャリパーとキャリパーベースの位置を考えるには、単に移動する範囲の中で考えるのではなく、有効な移動範囲の中から考えなければいけなかった。

正しいキャリパーサポートの位置を再度検証して、アクスルシャフトのカラーを注文し直そう。

強度不足が露見

改造車検について色々調べているうちに、ようやくトルクロッドにかかる力を計算する方法を会得した。その計算によると、トルクロッドにかかる力は11872.7Nだとわかった。(前記事「トルクロッドにかかる力」参照)

制動装置の安全率は1.6となっている。安全率というのは、かかる力の安全率倍の強度が必要だということだ。11872.7×1.6=18995.2Nの力に耐える強度を持った部品でなくてはならない。今のトルクロッドは、M8どころか、M10のロッドエンドの強度ですら足りない。しかも、さらにわかったことがある。

2017はアルミでありながら引張強度が鋼並みだということで、バイクのカスタムにもよく使われているものだ。しかし、改造車検についていろいろ調べているうちに、調質によって、強度が変わるということがわかってきた。

調質 まあ、よく知りはしないけど、知らなくもない言葉。ただ、強度的にベストな調質のものと、素のものが違い過ぎる! しかも調質を上げる術がないから、言ってみれば生の材料の強度で勝負するしかない。

ぐだぐだな時が過ぎていく

トルクロッドにかかる力 -ドラムからディスクの改造車検-

ブレーキにかかる力とトルクロッドにかかる力の関係

トルクロッドの強度計算をするにあたって、トルクロッドにどれだけの力がかかるか計算しなければならない。今回行なった改造に基づいて、トルクロッドにかかる力を計算してみよう。

トルクロッドにかかる力

トルクロッドにかかる力を計算するにあたって一番元となる力は足でブレーキペダルを踏む力だ。これは道路運送車両の保安基準の細目を定める告示【2003.09.26】別添13(二輪車の制動装置の技術基準)で二輪の場合は350Nと決められている。

N(ニュートン)で計算しても、kgで計算しても、どちらでも構わないが、トルクロッドに使う材料の仕様書は、大抵ニュートン系で書かれているので、ニュートンで計算した方がいい。

350Nなんて言われてもピンとこないが、1N=9.8kgということから、おおむねNを10で割った数字がkgとなるので、イメージしやすくなるだろう。

さて、その350Nがブレーキペダルにかかるブレーキペダルは、WR’sのバックステップのもので、実測すると、支点となるステップバーの中心から踏面までが135ミリ。同様にマスターシリンダーを押すロッド取付部までが30ミリ。

レバー比は、135/30=4.5 で、350Nでブレーキペダルを踏んだ力は、300*4.5=1575N となり、マスターシリンダーのピストンを押す。

マスターシリンダーはZRX1100のニッシンのもの。直径は14ミリなので、ピストンの面積は、(14*14*3.14)/4=153.9mm2 となり、1575/153.9=10.23N/mm2 の圧力でブレーキフルードを押すこととなる。

この圧力を受け止めるのがブレーキキャリパーのピストン。ZX-10のブレーキキャリパーは異径2ポッドで、直径がそれぞれ34ミリと27ミリ。面積の合計は、

(34*34*3.14)/4+(27*27*3.14)/4=1479.7mm2 となる。

片押しキャリパーの場合、ピストンの面積は2倍する。対向ピストンに比べてピストンの数が半分だからといって、悲観することはない。ピストン面積は1479.7*2=2959.4mm2 となる。

このピストン面積に、先程算出していたブレーキフルードを押す圧力をかける。2959.4*10.23=30286.3N 

これに摩擦係数0.4をかける。この0.4も決められた数字。

30386.3*0.4=12,114.5N

これが動摩擦力で、バイクを停止させるベースの力。これを受け止めるのがトルクロッドになるのだが、トルクロッドの位置や角度で、トルクロッドにかかる力は変わってくる。まあ、普通これより大きな力を受ける。それを計算していこう。

ここからは、俺が捨てた高校の数学の世界に入っていく。

この動摩擦力が、トルクロッドの取付ボルトの位置でどれだけの力に変わるかは、キャリパーピストンの中心位置とアクスルシャフトの中心までの距離、トルクロットの取付ボルトとアクスルシャフトの中心までの距離に関係する。

ZX-10のキャリパーサポートとキャリパーの組み合わせの場合、キャリパーピストンの中心とアクスルシャフトの中心までの距離は114ミリ。トルクロッドの取付ボルトとアクスルシャフトの中心までの距離が133ミリなので、

(12114.5*114)/133=10383.9N

がトルクロッドの取付ボルトにかかる力となる。ただし、これはアクスルシャフトを中心として、取付ボルトを通る円の接線方向にかかる力となる。次にこの接線とトルクロッドのなす角度に着目する。

ブレーキにかかる力とトルクロッドにかかる力の関係

これは実測に基づいてCADで図面を描いて角度を測定する。29°だとわかった。トルクロッド取付ボルトを通る円の接線を底辺、トルクロッドの中心線を斜辺とし、両辺のなす角をθとすると、cosθ=cos29°=0.8746 となる。cosθは、「cos29°」などと検索すると、google先生が教えてくれる。さてトルクロッドにかかる力は、

10380.9/0.8746=11872.7N

となることがわかった。

改造車検へのスタート -ドラムからディスクの改造車検-

滑る荷物に引っ張られるのも動摩擦力

ドラムからディスクの改造車検

ZRX1100のスイングアームをW650に装着する改造がもうすぐ完成という中、その裏で進めていた車検取得のための道のりの話を始める。

どんな車検になるのか?

まずはフレームを交換したので、そのフレームでの登録になる。これは車検的には中古新規という車検になるそうだ。次に改造した部分。主だったものは以下の通り

  • ウィンカーのLED化
  • ナンバー灯のLED化
  • ステップの変更
  • スイングアームの変更
  • リアブレーキのディスク化

これらの変更で、どのような手続きをしなければならないかは、変更した部品が指定部品か指定外部品かで変わってくる。Y’S GEARのHPで、非常にわかりやすく説明してくれているので、是非見てもらいたい。

大事なのは、指定部品でも指定外部品でも、車体の寸法が一定の範囲を超えなければ、構造変更にはならないということ。つまり、今回の改造の中でも大がかりとも言えるスイングアームの変更は、ホイールベースの変化が1センチ程度なので、構造変更にはならないのだ。むろんウィンカーやナンバー灯、ステップなんてまったく問題なし。

そうなると今回車検を受けるにあたって最大の問題はリアブレーキのディスク化だ。これは、構造変更ではなく改造自動車となるらしい。いわゆる改造車検ってやつだ。

改造車検・・・

ついにこの領域に足を踏み入れるわけだ。先人の知恵をいただこう。ドラムからディスクの改造車検をネットで検索しまくる。特に参考になったのがこのふたつのサイト。
改造車検
Superior, Inc

このふたつのサイトを読んでわかった、ドラムからディスクへ変更するにあたって必要な技術的な書類はおおむね下記の通り。

制動能力計算書
キャリパーサポート強度計算書
トルクロッドまわりの強度計算書

もうひとつわかってきたのが、純正部品の流用なら、流用元のマシンの重量が流用先のマシンの重量より重ければ、これらの計算書は省略できるということ。今回の改造で言えば、流用元のZX-10や、ボンネビルT120の車重がW650より重いので、省略できるということだ。ただ、トルクロッドは新造なので、計算書が必要になってくる。

トルクロッドにかかる力って

参考にしているサイトの人も、トルクロッドの強度計算には困ったらしい。参考資料をダウンロードできるようにしてくださっているが、トルクロッドにかかる力の根拠が書かれていないので、正直参考にならない。まずはトルクロッドにはどのような力がかかるか調べる必要がある。

トルクロッドは、制動力を受け止めるのは間違いない。だから制動力を算出する必要がある。この計算は参考にしているサイトのSuperior, Incさんが非常にわかりやすい。

制動力の計算を言葉で表すとこんな感じ

  • 足でブレーキペダルを踏む
  • ブレーキペダルの支点と踏面までの距離、ブレーキペダルの支点とマスターシリンダーを押すレバーの長さの比で、てこの原理で踏力が増加する。
  • マスターシリンダーのピストンの面積から、単位面積当たりの力を算出する。その単位面積当たりの力に、ブレーキキャリパーピストンの面積をかける。
  • 出た数字に摩擦係数をかける。これがブレーキキャリパーがディスクを締め付ける力。
  • キャリパーの中心点と車軸中心までの距離と、タイヤ接地面から車軸までの距離の比で、キャリパーが締め付ける力が減ぜられ、制動力となる。

と、こうなるわけだ。しかし感覚的にわからないのが、締め付ける力の値が、そのまま制動力となるところだ。締め付ける力はディスク面に垂直なのに、制動力はディスクの接線に平行。この変換がイメージできない。

後日談になるが、結局、車検を受けてまで、このことは理解できずもやもやしていた。だがある日、このキャリパーを締める力が制動力となることに、ふと胸に落ちた。それはこんなイメージからだ。

無限に長い、幅30ミリのフラットバーが落下している。その落下を妨げるように、親指と、人差し指でつまんでみる。フラットバーは指の間で滑りながらも落下スピードが落ちるかもしれない。

このイメージのまま、フラットバーの落下スピードを上げてみる。摩擦熱で熱くなって触っていられないかもしれない。ただ、腕にかかる荷重は変わらない。

では、どうなったら腕にかかる力が強くなるか? それは、指とフラットバーの摩擦力があがったらだ。フラットバーの表面がヤスリみたいにザラザラになったら、腕にかかる負担が大きくなる。まあ指にかかる負担の方が大きそうだが。

別の見方で話そう。20kgの荷物が地面に置いてある。これにロープをつけて、引っ張って動かす。動き出してから動かし続けている間、ロープを引っ張る力が動摩擦力。この力は、動かすスピードによって変わるものではない。中学ぐらいに勉強するやつだ。動摩擦力をF、摩擦係数をμ、動かすものの重さをNとすると、その関係は以下の式で表される。

F=μN

荷物を引きずりながら引っ張ると動摩擦力

μは、この話で言えば、地面と荷物の滑りにくさ。1がmaxで、小さい数字ほどすべり易い。仮に摩擦係数が0.5だとしたら、荷物を動かし続けるには20*0.5=10kgで引っ張り続ければいい。

逆に考えてみる。荷物を引っ張るのではなく、荷物の下の地面が動き出して、荷物が自分から遠ざかっていく状況だ。この場合、自分の下の地面は動かないこととする。

滑る荷物に引っ張られるのも動摩擦力

遠ざかろうとする荷物に腕が引っ張られるが、動かないで耐えていると、動く地面の上で荷物が滑るようになる。このとき腕にかかる力は先程荷物を引きずりながら引っ張った時と同じ大きさだ。

動く地面にさらに動かそうとする力が働いてなければ、荷物の動摩擦力によって、地面はいつか停止する。動摩擦力は腕を引っ張る力であり、この力は地面がどんなスピードでも変わらない。スピードによって変わるのは地面が止まるまでの時間だ。

この現象をバイクに置き換えると、荷物がブレーキ、地面がブレーキディスク、ロープがトルクロッドになる。トルクロッドにかかる力は動摩擦力であり、ブレーキディスクのスピードにかかわらず、ブレーキキャリパーが挟む力と摩擦係数だけによって決まる。

実際のバイクのトルクロッドは、取り付け位置や取り付け角度によって受ける力が変わってくる。次回はそのあたりも踏まえた上で、トルクロッドの材質や寸法を考えていく。