組み立ての開始 -W650のボアアップ-

ピストンの直径を測定する 78ミリ

Wを810にボアアップしようとしている話の続き。一番はじめの話はこちら。

シリンダーが届く

ボーリング作業を依頼してあったシリンダーが、ビトーR&Dから届いた。

シリンダーヘッドとの合わせ面は、面研されていて美しい。これから塗装していく訳だが、その前にピストンリングの合口隙間を調整していこう。

ピストンリングの合い口隙間を調整する

ボアアップキットの説明書にある通り、シリンダーのお尻からピストンを使ってピストンリングを所定の位置まで押し込み、シクネスゲージで合口隙間を測定する。

いくつかの隙間が小さかったピストンリングを、ヤスリを使って調整した。

同時に、ピストンピンのスナップリングの端部も、ヤスリで丸めておく。

鍛造ピストンをあらためて眺める。飾っておきたいぐらい美しい。

シリンダーとシリンダーヘッドを塗装する

これから、シリンダーとシリンダーヘッドを塗装する。色はシリンダーヘッドはガンメタリック、シリンダーはガンメタに少々シルバーを混ぜた、薄いガンメタとする。まあ、前回と同じなのだが、「クランクケースがシルバー→シリンダーが薄いガンメタ、シリンダーヘッドがガンメタ、カムカバーが薄いガンメタ」というグラデーションで塗り分けていく。

あるかわからないが次の塗装の機会のために、ガンメタとシルバーの混合比をメモに残しておく。シリンダーヘッドはガンメタ1/シルバー4の割合、シリンダーはガンメタ1/シルバー13という割合だ。

マスキングテープで塗装しない部分をマスクする。

塗料は、いつものように「おもしろ塗装工房」で購入したものだ。筆塗りとエアブラシのハイブリッドで塗装していく。

なんだか濃い・・・

薄いガンメタのつもりが、ガンメタリックそのものと、さして変わりがない。グラデーションよどこへ? 仕方が無いので、カムカバーはシルバーにしておいた。暑いし(作業は夏)臭いから屋上で塗ってみたら、吹いた塗料が綿菓子みたいになってたいへんだった。

組み立てる

いろいろと準備が整ったので、組み立てに入る。まずはベースガスケット。ビトーR&Dのボアアップキットには、ベースガスケットが2枚入っている。1枚だと圧縮比が11.0:1となり、2枚だと10.7:1になる。2枚でもだいぶ高圧縮だ。3枚いれたいところだ。ちなみに手持ちの(中古だが)ガスケットと比べてみると、まったく同じもののように見える。

2枚のベースガスケットをセットし、ピストンをコンロッドに取りつける。ピストンリングコンプレッサーは、前回と同じく釣り竿のケースから切り出したプラスチックの板。前回の失敗を踏まえて、シリンダー側をできる限りまっすぐに切り出した。ここが平らでないと、でっぱっている部分がシリンダーに飲み込まれてしまう。

シリンダーをトップチューブから垂らした紐でぶら下げ、キックペダルを押し下げピストンをシリンダーに入れていく。シリンダーは固定されているわけではないので、キックペダルでの操作は、ごく微小だ。

ピストンリングコンプレッサーは成功だった。今まで何度か経験したシリンダーへのピストンの挿入の中で、最もスムーズに作業ができた。Wは360度クランクなので、ピストンが同じ位置なので本当に入れづらいのだ。

排気量の変更の構造変更を申請するために、ピストンの直径とストロークの長さを写真に撮っておく。

続いてシリンダーヘッドをのせるわけだが、その前にベベルシャフトを立てて置く。そしてこの段階でベベルシャフトのサークリップを入れておくのが大事。

上の写真の左側が、車体にセットした時の下になる。サークリップをこちらから入れると、すんなり入るが、右側から入れるとスプリングの台座のふくらみを越えなければならないので、サークリップが変形する。(写真のサークリップは左に歪んだもの、右に正常なもので、置き方としては逆になってしまった。) こう置いてサークリップを入れろと言われれば、誰だって左側から入れるだろうが、後述のように作業すると、右側からしか入れられなくなる。いつもこれで悩んでいたのだが、このブログの読者さんが下から入れれば大丈夫だと教えてくれた。

ただ、シリンダーヘッドを外さない限りベベルシャフトは取り外せず、よってこの方法はできないので、シリンダーヘッドを外さない限り、ベベルシャフトのサークリップは外さない方がよいと思う。しかし、サービスマニュアルに沿って漫然と作業すると、いつの間にか外してしまうので注意が必要。

発熱対策

ボアアップしたことによってエンジンの発熱量があがり、オーバーヒートが懸念される。以前から取りつけたいと考えていたオイルクーラーをこの機会に装着しようといろいろ調べると、オイルフィルターの後ろにオイルライン取り出しユニットを入れる方法は、W650にはリスクがあることがわかった。

というのも、W650(もちろんW400もW800も)は、オイルリリーフバルブがオイルフィルターの後ろにあるらしいのだ。オイルリリーフバルブは、オイルラインに異常な圧力がかかった時に、バルブを開放し油圧を下げる役割をしている。仮に、オイルクーラーからの戻りのオイルラインが詰まったとすると、上昇する油圧は解放されず、オイルクーラーコアを破裂させる可能性があるとのことだ。

それを回避する方法がある。俺にとっての神ブログ=続…Z1000Jさんが公開している。

それをマネさせてもらおうと、例によって余っているW400のオイルパイプとリリーフバルブを使って加工を始めた。

リリーフバルブの位置は、前述のブログを参考にしている。それほど、みちみちな場所ではなさそうなので、たぶん大丈夫(笑) むしろ、リリーフバルブの位置を左右間違えないかが心配(よくやるタイプ) 十分にチェックを重ねたうえで、オイルパイプに穴をあける。それでもたまに逆にあけてしまったりする自分が恨めしい。

ピッチが違うが、ねじが立つ厚みがたいしてないので仮固定ぐらいは問題ないだろうからと、タップを立てておく。オイルラインの中でリリーフバルブの先端が抵抗にならないように、丸みをつけて落としておいた。

が、結局このオイルパイプ加工は失敗した。アーク溶接でこれを完成させる技術を持ち合わせていなかったのが原因。TIG溶接機を本気で買いたいと思わせた出来事であった。

ピストンを探す -エンジンから異音-

宝石のような鍛造ピストン

キャブレターの油面を確認しようと思ったらエアジェットを燃焼室に吸い込んでしまったことに気づき、ついにエンジンを開けてみると、1番のピストンに大きなガタを確認した話の続き。エンジントラブルからの異音の話の始めから読みたいかたはこちら。

ピストンの摩耗

1番のピストンにガタが見つかったので、泣く泣くシリンダーを外す。前にも話したが、Wはシリンダー間に空気の通路があり、そこにオイルの行き還りのパイプがある。パイプとシリンダーには1ミリぐらいの隙間があり、そこに前輪が巻き上げたゴミが溜まる。オイルのパイプを抜くと、そのゴミがクランクケースに入ってしまうのだ。

幸い、根元に液体ガスケットを盛っておいたおかげで、隙間にゴミは入っていなかったようだ。「雨の日は走らない」を徹底しているのが功を奏しているのだろう。

シリンダーとピストンを外し、部屋に持ち込む。ピストンの外径を計測すると、1番と2番のスカート部で0.2ミリ違った。ガタがあまりなかった2番のピストンを、1番のシリンダーに入れてみたがガタは感じられなかった。結論はこうだ。

エアジェットを吸い込んで、それが例えば排気側のスキッシュエリアに入った時、ピストンの前方は下に押され、その反動で吸気側のスカートがシリンダーに押さえつけられる。エアジェットが燃焼室内にいられたのは数分のことだと思うが、そんな短い間でもピストンを0.1ミリ削ったわけだ。

今思えば、あの金属音を聞いた時に、すぐにエンジンを止めるべきだった。今、後悔しても、あのピストンはもう戻ってこない。

代わりのピストンを探す

ピストンの摩耗がカンカン音=スラップ音とわかった今、その音を消すには、ピストンを交換するしかない。我がWは、BEETのボアアップキットを組んである。というか組んであるエンジンを買った。だから、そのボアアップキットのピストンを手に入れなければならない。検索してみたが、もはやそんなものはなかった。

では、どうすべきか。ここで浮かび上がってくるのが、以前からやりたいと思っていた、エンジンをアシストスリッパークラッチになった2世代目のW800のものに換装することだ。クラッチが軽くなるのは、おじいちゃんの夢だ。しかし、その夢はすぐに砕ける。ヤフオクに出品されていない。今までもちょくちょく探しているが、W800のエンジンは、あまり出てこない。

やっぱり純正部品じゃないと、こういう時困るよなぁ と感じて思いついたのが、W800のシリンダーとピストンを買うことだ。純正部品だから、その後のトラブルにも対応しやすい。そう思ってカワサキのホームページにいく。

なんと欠品中ではないか。ピストンすら無い。現行車種なのに・・・ 純正部品だからって、全然安心できないじゃん!

W800には、できないらしい。仕方ない、他のW650ボアアップキットを探す。しかし無い。いや、ひとつだけある。ビトーR&Dのものだ。ただこれは高い。ウオタニを導入する前なら良かったが、すでにかなり出費しているので厳しい。

W800のボアアップキットならあるのではと探してみた。この場合、ノーマルスリーブをボーリングする構成なので、別途スリーブを手配する必要があるのが難点だ。しかし、そんな心配は無用だった。販売終了ばかりなのだ。現行車種なのにだ!

どうしよう・・・

あっ W400のシリンダーとピストンあるじゃん

ご存知の通り、W400はW650のストロークダウンモデル。つまりシリンダーとピストンは同じ。(品番違うけど、基本は同じはず) そして我がWは元々400だったので、分解された400のエンジンが1機あるのだ。それを使えば、スラップ音から解放される!

しかしなぁ 675ccになっちゃうよなぁ・・・

とりあえず探してみる。シリンダーはあっさり見つかった。排気量の表示はどうなってるんだっけ? と思って見てみると、なんとつるっとのっぺらぼうだった。なるほど。シリンダー内壁を観察すると、ピストンの下死点の痕が、シリンダーライナーの最下端よりだいぶ上にある。かなりのショートストロークだということがわかる。

さてピストンはどこにしまったっけ? 

いくら探してもみつからない。これではシリンダーがあっても意味が無い。持ってたはずのものを買うのは悔しいが、念の為カワサキ純正部品のサイトを見てみる。

欠品中

まじか(´・ω・`) もうだめだ

スラップ音から逃れる方法は、もはや一択。 ビトーR&DのW650ボアアップキットのみだ。

あらためて、ビトーR&Dのホームページに行ってみると、キットの部品が単品で販売されていた。これだよ、これ! こうあるべきでしょ

ビトーのボアアップキットの入手

覚悟を決めて、148500円のビトーR&Dのボアアップキットを買うことにした。実際に購入する前に、もう一度巷の評価を確認しようと、ネットで検索する。まったくもって覚悟ができていない。しかしこの潔の悪さが、すごい効果をもたらした。

検索結果に、アップガレージのページがあった。クリックすると、なんとそこには新古のビトーのボアアップキットが、ほぼ半値で販売されていたのだ。まじかよ!

ためらうことなく購入。2日後には宝石のようなピストンが我が家にやってきたのである。