ドラムからディスクの改造車検
ZRX1100のスイングアームをW650に装着する改造がもうすぐ完成という中、その裏で進めていた車検取得のための道のりの話を始める。
どんな車検になるのか?
まずはフレームを交換したので、そのフレームでの登録になる。これは車検的には中古新規という車検になるそうだ。次に改造した部分。主だったものは以下の通り
- ウィンカーのLED化
- ナンバー灯のLED化
- ステップの変更
- スイングアームの変更
- リアブレーキのディスク化
これらの変更で、どのような手続きをしなければならないかは、変更した部品が指定部品か指定外部品かで変わってくる。Y’S GEARのHPで、非常にわかりやすく説明してくれているので、是非見てもらいたい。
大事なのは、指定部品でも指定外部品でも、車体の寸法が一定の範囲を超えなければ、構造変更にはならないということ。つまり、今回の改造の中でも大がかりとも言えるスイングアームの変更は、ホイールベースの変化が1センチ程度なので、構造変更にはならないのだ。むろんウィンカーやナンバー灯、ステップなんてまったく問題なし。
そうなると今回車検を受けるにあたって最大の問題はリアブレーキのディスク化だ。これは、構造変更ではなく改造自動車となるらしい。いわゆる改造車検ってやつだ。
改造車検・・・
ついにこの領域に足を踏み入れるわけだ。先人の知恵をいただこう。ドラムからディスクの改造車検をネットで検索しまくる。特に参考になったのがこのふたつのサイト。
改造車検
Superior, Inc
このふたつのサイトを読んでわかった、ドラムからディスクへ変更するにあたって必要な技術的な書類はおおむね下記の通り。
制動能力計算書
キャリパーサポート強度計算書
トルクロッドまわりの強度計算書
もうひとつわかってきたのが、純正部品の流用なら、流用元のマシンの重量が流用先のマシンの重量より重ければ、これらの計算書は省略できるということ。今回の改造で言えば、流用元のZX-10や、ボンネビルT120の車重がW650より重いので、省略できるということだ。ただ、トルクロッドは新造なので、計算書が必要になってくる。
トルクロッドにかかる力って
参考にしているサイトの人も、トルクロッドの強度計算には困ったらしい。参考資料をダウンロードできるようにしてくださっているが、トルクロッドにかかる力の根拠が書かれていないので、正直参考にならない。まずはトルクロッドにはどのような力がかかるか調べる必要がある。
トルクロッドは、制動力を受け止めるのは間違いない。だから制動力を算出する必要がある。この計算は参考にしているサイトのSuperior, Incさんが非常にわかりやすい。
制動力の計算を言葉で表すとこんな感じ
- 足でブレーキペダルを踏む
- ブレーキペダルの支点と踏面までの距離、ブレーキペダルの支点とマスターシリンダーを押すレバーの長さの比で、てこの原理で踏力が増加する。
- マスターシリンダーのピストンの面積から、単位面積当たりの力を算出する。その単位面積当たりの力に、ブレーキキャリパーピストンの面積をかける。
- 出た数字に摩擦係数をかける。これがブレーキキャリパーがディスクを締め付ける力。
- キャリパーの中心点と車軸中心までの距離と、タイヤ接地面から車軸までの距離の比で、キャリパーが締め付ける力が減ぜられ、制動力となる。
と、こうなるわけだ。しかし感覚的にわからないのが、締め付ける力の値が、そのまま制動力となるところだ。締め付ける力はディスク面に垂直なのに、制動力はディスクの接線に平行。この変換がイメージできない。
後日談になるが、結局、車検を受けてまで、このことは理解できずもやもやしていた。だがある日、このキャリパーを締める力が制動力となることに、ふと胸に落ちた。それはこんなイメージからだ。
無限に長い、幅30ミリのフラットバーが落下している。その落下を妨げるように、親指と、人差し指でつまんでみる。フラットバーは指の間で滑りながらも落下スピードが落ちるかもしれない。
このイメージのまま、フラットバーの落下スピードを上げてみる。摩擦熱で熱くなって触っていられないかもしれない。ただ、腕にかかる荷重は変わらない。
では、どうなったら腕にかかる力が強くなるか? それは、指とフラットバーの摩擦力があがったらだ。フラットバーの表面がヤスリみたいにザラザラになったら、腕にかかる負担が大きくなる。まあ指にかかる負担の方が大きそうだが。
別の見方で話そう。20kgの荷物が地面に置いてある。これにロープをつけて、引っ張って動かす。動き出してから動かし続けている間、ロープを引っ張る力が動摩擦力。この力は、動かすスピードによって変わるものではない。中学ぐらいに勉強するやつだ。動摩擦力をF、摩擦係数をμ、動かすものの重さをNとすると、その関係は以下の式で表される。
F=μN
μは、この話で言えば、地面と荷物の滑りにくさ。1がmaxで、小さい数字ほどすべり易い。仮に摩擦係数が0.5だとしたら、荷物を動かし続けるには20*0.5=10kgで引っ張り続ければいい。
逆に考えてみる。荷物を引っ張るのではなく、荷物の下の地面が動き出して、荷物が自分から遠ざかっていく状況だ。この場合、自分の下の地面は動かないこととする。
遠ざかろうとする荷物に腕が引っ張られるが、動かないで耐えていると、動く地面の上で荷物が滑るようになる。このとき腕にかかる力は先程荷物を引きずりながら引っ張った時と同じ大きさだ。
動く地面にさらに動かそうとする力が働いてなければ、荷物の動摩擦力によって、地面はいつか停止する。動摩擦力は腕を引っ張る力であり、この力は地面がどんなスピードでも変わらない。スピードによって変わるのは地面が止まるまでの時間だ。
この現象をバイクに置き換えると、荷物がブレーキ、地面がブレーキディスク、ロープがトルクロッドになる。トルクロッドにかかる力は動摩擦力であり、ブレーキディスクのスピードにかかわらず、ブレーキキャリパーが挟む力と摩擦係数だけによって決まる。
実際のバイクのトルクロッドは、取り付け位置や取り付け角度によって受ける力が変わってくる。次回はそのあたりも踏まえた上で、トルクロッドの材質や寸法を考えていく。