パイロットスクリューを増設して、セッティング中の話の続き。
スロージェットを42番にしたところで、アクセルを戻しても回転の下がりが鈍くなった。燃調が薄すぎるようだ。ここでついにパイロットスクリューを調整してみた。
セット名 | AS | SJ | JN | C段数 | MJ | PS |
CRPS5 | 3/4 | 42 | 5175 | 6 | 140 | 1 3/4 |
これは微調整を繰り返した結果。アクセルオフで、しっかり回転が下がるようになった。ここが、低開度域の薄い限界だろう。
1/4パーシャルの脈動は、出し続けても運転には支障がないが、ちょっと気になる程度。ノッキングを無くすのは、キャブセッティングではこれが限界な気がする・・・
やるだけのことは、やったので、最後の手段。圧縮比を下げることにする。方法は、ベースガスケットを厚くすることによって、燃焼室容積を増やすという手法。ヘッドガスケットを厚くする方が、作業の安易度(そんな言葉あるのか?)が半端ないが、ヘッドガスケットを複数枚にするのは、やめた方がいいらしいのであきらめた。
ベースガスケットの製作
現在、ベースガスケットは2枚入っている。これは、ビトーR&Dのボアアップキットの指示の通り。圧縮比は10.7らしい。これを1枚使いにすると、圧縮比は11になるとのこと。
手持ちのベースガスケットの厚みを測ってみると、0.25ミリだった。この0.25ミリの違いで、圧縮比が10.7から11へ変わる燃焼室容積を計算してみる。
基準燃焼室容積 (不明の数値): Pn
基準ストローク容積(ボア^2 * 3.14 / 4 * ストローク) : Ps
ベースガスケットの厚み : t
ベースガスケットの厚みで増加する分の燃焼室容積(ボア^2 * 3.14 / 4 * t ) : Pg
として
圧縮比 = ( Pn + Pg + Ps ) / (Pn + Pg)
この計算をもとに、ベースガスケットの厚みが0.5の時、圧縮比が10.7となり、ベースガスケットの厚みが0.25の時、圧縮比が11になるPnを導き出した。
導き出された燃焼室容積を基に、ベースガスケットを何ミリにすれば圧縮比を希望の値にできるのか計算してみる。その前に目指す圧縮比をいくつにするかだ。ノーマルW650は8.6。ボアアップ前のBEETボアアップキットは9.0。9台が目標だろう。
計算してみると、1.5ミリで9.7となった。1ミリのアルミ板で増しガスケットを作り、本物2枚ではさめば1.5ミリだ。9.7では思い切りが悪い気もするが、10.7からの変更だから、そこそこ変わるのではないかという思い。
買ってきた1ミリのアルミ板とベースガスケット。

ケガキ針でけがいて、ジクソーでざっくり切る。

ジグソーの刃だが、アルミ用は目詰まりしないように目が粗くできているが、引っかかった時の衝撃で1ミリのアルミ板なんてすぐに曲がってしますので、あえて鉄用をチョイス。

丸穴はホルソーであけたが、ハンドドリルなので精度は期待できず小さめの穴にしておいた。その後ルーターでけがき線ぎりぎりまで追い込んだ後、ヤスリで仕上げるという完全なる家内制手工業。
完成したベースガスケット。

我ながら悪くない出来。
ベースガスケットの組み込み
会社からの帰りの国道。ダブたんで信号待ちをしている真横に、後ろからやってきた黒いバイクが停まった。右手をあげて、こちらに合図をしているのを視線の端に感じて、そちらに顔を向ける。
「これW650ですか?」
「そう ボアアップしてるから800だけど」
「いやあ めちゃめちゃかっこいいですね!」
「ありがとう!」
素直に嬉しい。見るとその彼もWだった。キックペダルがついているから、おそらく650だろう。
「何キロ走ってます?」
そう訊かれて一瞬考えたが、
「8万キロ」
と、W400からの距離を答えた。初めの部品はワイヤーハーネスとタンクぐらいしか残ってないけど、俺にとってのWは、同じこの1台だ。
「へ~ エンジン綺麗ですよね オーバーホールとかしてるんですか?」
「うん 何度も」
明日も腰上だけだけどばらすよ は、心の中で言った。
「じゃあ気をつけて!」
信号が青になる直前にそう言うと、青信号の点灯とともに勢いよく発進した。彼に続いてダブたんのクラッチをリリースしながら、「かっこいいだけじゃなくて速いぜ」と呟いた。どこで抜こうか考えていたが、彼は車の間を抜けて、あっという間に見えなくなってしまった。
翌日 もうすっかり手馴れた作業で、Wのエンジンをばらす。ただ、今回のばらし前に、左右のシリンダーの間をエアガンで掃除しなかった。それは、オイルパイプの根元を、液体パッキンで割としっかり塞いでいたからだ。しかし、甘かった。

クランクケースにも入ってしまった。クランクシャフトに乗っかっている小石を、ピンセットで慎重に取り除きはしたが、果たしてこぼれ落ちたやつはなかったのだろうか・・・
ピストンにカーボンは、それほど堆積していなかった。そりゃそうだろう。まだ2000キロほどしか走っていない。

外したベースガスケットをきれいにして再使用する。これはすでに経験ありで、オイル漏れは起きなかった。使うのはキタコの液体パッキン、クランクケース用。自作ベースガスケットを、純正再使用ベースガスケットでサンドイッチする。
ヘッドガスケットも再使用。キタコの液体パッキン、シリンダーヘッド用だ。これももちろん実績あり。このガスケットは4000円近くするので、頻繁な分解では交換できない。
10時から始めて昼は映画を観たけど、夕方には終わった。キックで始動してみる。
3回のキックで、エンジンはぬるっと活動を始めた。柔らかい。実に柔らかい。
高圧縮時代は、ケッチンを喰らって足首を痛めてから、キックでの始動はしていなかった。早朝の始動は、キックが静かでいい。
低圧縮化の結果
圧縮比を9.7にしても、完全にノッキングを無くすことはできなかった。ただ、アクセルを開けるのが嫌になるほどではなく、本当に無理目に開けた時だけ。かすかに聴こえるこの音は、もしかしてベベルギアから鳴ってるのか? なんて思えたりもして。ピストンに異常も見られなかったから、あんまり神経質にならなくてもいいのかなとも。
圧縮比を下げたことによるパワーダウンも、それほど感じられないし、これは十分成功と言えるだろう。
思えば1年前のツーリングから始まった長い不調期間も、これでようやく終わり。今年は気持ちよく春ツーに行けそうだ。次回からは完全に頓挫していた、ZRX400のタンクの流用とシートカウル制作の話を再開できそうだ。
